営業戦略
「結局、売れる営業マンとは、どんな人なのか」
答えは長く二つに割れてきました。決めた型を愚直に回せる人か、顧客も気づかない課題を掘り当てる人か。量の営業か、質の営業か。
多くの研修は「量より質」と教えます。方向性としては私も同意します。ただCLF PARTNERSとして累計400社以上・3,000人以上の営業支援に関わるなかで、この二択では説明のつかない人を何度も見てきました。
高成果者は、深い問いを投げるだけではありません。接触数を落とさず、しかも頼まれた小さなことに驚くほど速く動く。議事録を当日中に送る。頼まれた資料を約束より早く出す。
外から見ると「そこまでやるのか」と思うほど愚直です。そこで私たちは、支援現場で見えた第三の軸を加え、QDRモデルとして整理しました。営業成果をQuantity(量)、Depth(深さ)、Response(応答)の3つで捉え、どこで案件が止まっているかを特定する、CLF PARTNERS独自の実務フレームです。
必要なのは、量か質かを選ぶことではありません。この三つを切らさず回し続けることです。
この記事はこんな方におすすめ
- 営業の行動量を増やしているのに、受注につながらない
- ヒアリング研修を実施したら、今度は商談数と提案スピードが落ちた
- トップセールスの成果が属人的で、何が違うのか言語化できていない
- 商品の機能差が小さく、価格比較から抜け出せない
- 営業会議が数字確認だけになり、改善の学習が起きていない
「売れる」を営業個人の能力だけで説明してはいけない
売れている理由を営業本人の能力だけに求めると、再現性を見誤ります。営業成果は、市場・商品・戦略・営業行動の掛け算で生まれるものだからです。
実際、同じ人が同じやり方で動いても、扱う商品や所属する会社が変われば数字は変わります。したがって、トップセールスの行動を切り出す前に、その人の成果から市場や商品の影響を取り除く作業が必要になります。
そして既存の営業研究も、「量か質か」という二択では成果を説明していません。示しているのは、量を学習に変えられているかどうかです。まずはこの2点から確認していきます。
成果は市場・商品・戦略・営業行動の掛け算で生まれる

営業成果は何で決まるのか。営業個人の能力だけではなく、市場・商品・戦略・営業行動という四つの条件の掛け算で決まります。
売れている人を見つけると、私たちはその人の話し方や質問力、性格に答えを求めたくなります。しかし同じ人でも、追い風のある商品を売るときと、需要が縮小している商品を売るときでは数字が変わる。
ブランド力のある会社から無名企業へ移れば、アポイントの取りやすさも提案の通りやすさも変わります。課題が顕在化している顧客と、何も困っていない顧客でも、必要な行動は違います。つまり、次のような構造上の問題を残したまま「営業の気合いが足りない」と言っても、成果は安定しません。
- 市場ニーズが弱い
- 商品競争力が不足している
- 狙う顧客がずれている
- 営業プロセスが設計されていない
逆もまた危険です。強い市場と商品に恵まれた人の数字だけを見て「トップセールスの能力」と評価すれば、再現性を見誤ります。売れる営業を科学する第一歩は、本人の成果から市場・商品・戦略の影響を切り分けることです。
研究が示すのは「量か質か」ではなく「量を学習に変えられるか」
営業研究は「量と質のどちらが重要か」に答えているのか。答えていません。示しているのは、量を学習に変えられているかどうかです。
Sujanらが1994年に発表した研究は、営業活動を「working hard(懸命に働く)」と「working smart(賢く働く)」に分けました。working smartとは、販売状況についての知識を増やし、それを実際の売り方に活用する行動です。
この研究で示されたのは、学習目標を持つ営業は賢く働くだけでなく、懸命にも働くという事実でした。さらにVerbekeらによる営業成果要因のメタ分析でも、販売関連知識や状況への適応度、認知能力など複数の要因が挙げられています。
営業成績は、話術のような単一スキルでは説明できません。またFrankeとParkのメタ分析は、顧客ごとに売り方を変える「適応型販売」が成果と関係することを示しています。
したがって、研究の示唆を現場の言葉に翻訳すると、こうなります。
- 量は、顧客を説得するためだけでなく、市場から学ぶための母数である
- 深さは、知識を披露するためではなく、顧客ごとに勝ち筋を変えるためにある
量を増やしても、同じトークを繰り返すだけなら学習は起きません。逆に深く考えても、実際の顧客にぶつけなければ仮説のままです。量と深さは対立せず、互いを強くする循環の関係にあります。
参考:Sujan, H., Weitz, B. A., & Kumar, N. (1994). Learning Orientation, Working Smart, and Effective Selling. Journal of Marketing
参考:Verbeke, W., Dietz, B., & Verwaal, E. (2011). Drivers of Sales Performance: A Contemporary Meta-Analysis. Journal of the Academy of Marketing Science /
参考:Franke, G. R., & Park, J. E. (2006). Salesperson Adaptive Selling Behavior and Customer Orientation: A Meta-Analysis. Journal of Marketing Research /
本記事が前提とする市場と、観察の範囲
本記事が対象とするのは、商品の機能差が小さく、顧客が複数社を比較しやすい市場です。具体的には、次の条件を満たす商材を想定しています。
- 顧客が複数社を比較しやすい
- 基本機能や提供内容に大差がない
- 価格・実績・サポートが主要な比較軸になりやすい
- 営業担当者の対応そのものが選定理由になり得る
商品だけで圧倒できない市場だからこそ、営業担当者の行動が「最後の差」になります。そこで初めて「売れる営業マンは何が違うのか」という問いが意味を持ちます。
そしてQDRモデルは、CLF PARTNERSが累計400社以上・3,000人以上の営業支援で得た知見を背景としています。なかでもモデル形成の主な観察範囲としたのは、2021年から2026年に支援した約35社・935名です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 観察期間 | 2021年〜2026年 |
| 対象 | 約35社・935名 |
| 主な業界 | IT・SaaS、人材、製造、セキュリティ、SES |
| 企業規模 | スタートアップ約4割、中堅企業約4割、大手企業約2割 |
| 支援内容 | 営業コンサルティング、営業研修、営業代行、マネジメント支援 |
| 分析対象 | 営業成績上位5%かつ目標達成の約30名 vs 一般営業・若手営業約500名 |
この中で、各社の営業成績上位5%に位置し、かつ目標を達成していた約30名をトップセールスと定義し、商談同席、1on1、営業会議、CRM、研修、顧客へのヒアリングを通じて詳しく観察しました。
ただし、これは無作為抽出した対象への実験や、統一した尺度を用いた統計調査ではありません。複数業界の支援現場で蓄積した観察をもとに、再現性が高いと考えられる行動を帰納的に整理した探索的な実務研究です。
したがって本記事では、QDRを因果関係が実証された公式ではなく、今後検証可能な実務仮説として提示します。
結論|QDRモデルとは、営業を「量・深さ・応答」で捉える実務フレーム
売れる営業マンに共通するのは、機会をつくる量、違いをつくる課題の深さ、信頼をつくる応答実行の三つです。この三つを切らさず循環させている状態を、CLF PARTNERSではQDRモデルと定義しています。

重要なのは、この枠組みが営業個人の能力を採点するためのものではないという点です。目的は、営業活動がどこで止まっているかを見つけ、次の改善行動を決めることにあります。したがって、三軸の点数を比べて順位をつけるのではなく、案件が前へ進まない原因を切り分けるために使います。
Q:Quantity/機会をつくる量
Qとは何を指すのか。必要な相手に会い、提案し、追客し、反応を確かめる回数です。
ただし、大切なのは件数そのものではありません。仮説を試せる「有効行動」が続いているかどうかを見ます。有効行動には、次のようなものが含まれます。
- ターゲットに合った新規接触
- 次回行動の設定
- 決裁者との接点づくり
- 提案後のフォロー
- 失注理由の回収
つまり、動いた件数だけでなく、案件や学びが一段進んだかどうかが基準になります。Qが低いと、良い仮説を持っていても試す機会が足りず、一件の受注や失注に数字が左右されます。営業を型化する目的は、人を機械にすることではありません。学習に必要な母数を、安定して確保することにあります。
自社で確認するなら、必要な相手と話せているか、次回行動が置かれているか、学びが記録されているかを見てください。
D:Depth/違いをつくる課題の深さ
Dとは何を指すのか。顧客が口にした要望の奥にある構造を捉える力です。質問数を増やすことではありません。「本当に解くべき問題は何か」を、顧客と一緒に明らかにする作業です。具体的には、次の四つを捉えます。
- 事象:顧客の現場で実際に何が起きているか
- 原因:その事象がどこから生じているか
- 影響:放置した場合、売上や組織に何が起きるか
- 意思決定:誰が納得すれば、いつ動くのか
たとえば顧客が「営業研修をしたい」と言ったとき、研修内容の話から入るのではなく、受注率、案件化率、マネジメント、商品競争力のどこにボトルネックがあるのかを確認する。その結果、「研修を売る会社」ではなく「売上停滞の原因を特定できる会社」として見られるようになります。
したがって、Dが高い営業は商品説明ではなく、課題の定義で差をつくります。商品の機能差が小さい市場でも、問題の定義を変えることで比較軸そのものを動かせるためです。
自社で確認するなら、直近の提案が顧客の課題、放置した場合の影響、意思決定条件まで説明できるかを見てください。
R:Response/信頼をつくる応答実行
Rとは何を指すのか。顧客の発言・依頼・懸念を受け取り、意図を確認し、社内外を動かしながら次の行動と期限を定め、完了まで閉じる力です。CLF PARTNERSでは、この力を「応答実行力」と定義しています。
単なる返信速度ではありません。次の三つを含みます。
- 速度:顧客の関心や案件の勢いが失われる前に、最初の反応を返す
- 忠実度:依頼の表面だけでなく、背景、目的、期待水準を理解する
- 完遂度:約束、期限、社内調整、途中報告、完了報告までを曖昧にせず閉じる
Rは、Dで得た理解を顧客に見える行動へ変える工程だと言えます。どれだけ深く課題を理解していても、行動として現れなければ顧客には伝わりません。
そして小さな約束を守るほど相談が増え、その相談がDを深め、次のQにつながります。自社で確認するなら、商談後の議事録、回答期限、完了報告が曖昧になっていないかを見てください。
QDR|三つは足し算ではなく掛け算で見る
三つの軸はどう関係するのか。足し算ではなく、掛け算の関係にあります。
概念表現:Q(量)× D(深さ)× R(応答)
ただしこの掛け算は、統計的な予測式ではありません。どれか一つが弱いと他の強みが成果へ変わりにくい、というボトルネックを示すための概念表現です。
具体的には、次のような詰まり方をします。
- Qが弱い:仮説を試す母数が足りず、勝ち筋を学べない
- Dが弱い:要望の奥まで捉えられず、価格比較から抜け出せない
- Rが弱い:理解や提案が行動に変わらず、顧客の意思決定が止まる
たとえば商談数も提案内容も十分なのに受注が伸びない場合、架電数や資料を増やす前に、提案後の連絡、回答期限、次回設定を確認してください。止まっている場所がRなら、まずRを直すほうが速く効きます。つまりQDRは、三つの強みを足して順位づけるものではなく、循環が回っているかを見るための枠組みです。
なぜ「量×深さ」の二軸では足りなかったのか
営業は長らく「量」と「深さ」の二軸で語られてきました。行動量を確保しつつ、顧客の課題を深く掘る。これが理想とされてきた形です。
ところが支援現場では、この二軸だけでは説明のつかない高成果者を何人も見てきました。量も深さも一定水準にある。しかし、それ以上の違いがありました。QDRの第三の軸であるResponseは、この観察から生まれています。
量×深さで分けた営業の4タイプ
量と深さの二軸で営業を分けると、どうなるのか。次の4タイプに整理できます。

目指すべきは、量と深さを循環させる学習適応型です。行動量を保ちながら顧客の反応で仮説を更新するため、成果が再現されやすくなります。
一方で注意したいのが、待機説明型の扱いです。問い合わせを待ち、用意された商品説明をするだけの状態を、本人の怠慢と決めつけてはいけません。
誰に、どのメッセージで、どれだけ動けばよいかが決まっていない。顧客の課題を考える材料も権限もない。こうした環境では、やる気があっても待機型になります。
営業個人を責める前に、ターゲット、標準行動、質問項目、判断基準、レビューの仕組みが用意されているかを確認すべきです。
二軸では説明できないトップセールスがいた
二軸で整理すれば十分だったのか。十分ではありませんでした。学習適応型の枠に収まらない高成果者が、支援現場には存在したためです。
彼らは量も深さも一定水準にあります。行動量を落とさず、顧客の課題も深く捉えている。ここまでは学習適応型と同じです。しかし決定的に違う点がありました。顧客からの依頼や、商談後の小さな約束に対する動きです。
具体的には、次のような行動が圧倒的でした。
- 依頼されたら動く
- わからなければ確認する
- できないことは曖昧にせず、代案を持って返す
- 期限を置き、途中経過を伝え、完了まで閉じる
いずれも特別な話法ではありません。むしろ「当たり前」と呼ばれる行動です。ところがその密度と速度が、一般営業とはまったく違っていました。
そこでCLF PARTNERSでは、この力をResponse(応答実行)として第三の軸に定義しました。量と深さだけでは、成果の差を説明しきれなかったためです。
支援現場で見えた、Q・D・Rの決定的な違い
ここからは、QDRの着想につながった三つの観察事例を紹介します。いずれもCLF PARTNERSが実際に支援し、私が商談同席や1on1を通じて見てきた営業です。
ただし一社・一商材の事例であり、数値をそのまま他の営業に一般化するものではありません。それでも、高成果者が何を違う行動として実践していたのかを理解する材料になります。
Q:気分に左右されず、有効行動を積み上げる
Qが高い営業は何が違うのか。決めた活動を、毎日ほぼ同じ水準で続けられる点です。歯科業界に特化した人材広告の会社を支援したときのことです。そこのトップセールスは、歯科医院のキーマンの仕事内容や一日の動き方に合わせて、架電とメールの内容、実施時間、追客の手順を型化していました。
ただし、型そのものは他の営業も持っています。違いは運用でした。一般営業はその日のモチベーションや案件状況によって活動量に波が出るのに対し、彼には精神的なムラが行動に表れません。支援現場の記録では、同社の低成果層と比べて行動量・成果ともに概ね2倍の水準にありました。
さらに特徴的だったのが、狙うべきロイヤルカスタマーの条件だけでなく、「アプローチしない顧客=アンタッチャブル案件」の条件まで言語化していた点です。判断基準には、次の二つを含めていました。
- 定量条件:歯科医院のユニット台数など
- 定性条件:キーマンの考え方や人柄
つまりQは、手当たり次第に件数を増やす力ではありません。成果につながりにくい活動を減らし、狙うべき相手への有効行動を、感情に左右されず積み上げる力です。
D:上流へ上げるだけでなく、事象の「下側」へ潜る
Dが高い営業は、どこを深掘りするのか。経営課題という上流だけでなく、事象が生まれた理由という「下側」にも潜ります。
DX・AI関連商材を扱う会社のトップセールスは、顧客が口にした要望をそのまま課題として扱いませんでした。「AIを導入したい」「業務をDX化したい」と言われても、すぐに製品説明や提案へは進みません。
彼が最初に確認していたのは、顧客の現場で実際に何が起きているのかという事象です。そこから課題仮説を立て、次の点を掘り下げていました。
- なぜその事象が起きているのか
- どの業務や仕組みが原因なのか
- どのような背景や発生要因があるのか
一般営業との違いは明確でした。多くの営業は話を経営課題へ引き上げようとしますが、彼はそれに加えて、目の前の事象が生まれた理由にも同じ深さで潜っていたのです。課題を大きく見せるのではなく、原因の構造を正確に捉える。その深さが、提案の違いを生んでいました。
R:顧客と自社の意思決定を止めない
Rが高い営業は何をしているのか。顧客側と自社側、両方の意思決定が止まる時間を短くしています。
Responseの着想となったのは、大手SFA企業で年間MVPを獲得し、プロセス指標でも1位となった営業の行動でした。印象に残ったのは高度な話法ではありません。顧客から「一緒にプロジェクトを進めるパートナー」のように相談され、それに対して驚くほど速く、素直に動いていたことです。
具体的には、次の行動に違いが出ていました。
- 悪い情報ほど早く上司へ伝え、相談の頻度を上げる
- 必要な部署や関係者を巻き込み、社内の判断を早める
- 本番提案の前に事前ミーティングを設け、提案前から合意形成を進める
その結果、社内の判断が早まり、顧客側の意思決定まで前へ進んでいました。
なお、Web問い合わせへの反応速度を調べたOldroydらの調査では、1時間以内に連絡した企業は、1時間を超えてから連絡した企業よりリードを有望化できる可能性が約7倍高いという結果が出ています。
すべての商談に同じ倍率は当てはまりませんが、顧客の関心に時間的な寿命があると考える材料にはなります。実務では、すぐに正解を返せなくてもかまいません。「確認して明日15時までに回答します」と先に返すだけで、顧客の不安と案件の停止は防げます。
Q・D・Rを実務の手順に落とす
QDRは概念のままでは使えません。現場で運用するには、測れる基準に変換する必要があります。CLF PARTNERSでは、三軸をそれぞれ次の形で基準化しています。Qは有効行動の定義、Dは顧客課題の5段階、Rは応答実行の5ステップです。
ここからは、各軸の基準を順に解説します。
Qの基準|件数ではなく「有効行動」で数える
Qは何を数えればよいのか。架電数やメール数ではなく、案件や学びが一段進んだ「有効行動」を数えます。件数だけを追うと、現場は数字を埋めるために動きます。その結果、ターゲットから外れた相手への接触が増え、母数は大きいのに案件が育たない状態に陥ります。
有効行動に含まれるのは、次の5つです。
- ターゲットに合った新規接触
- 商談後の次回行動の設定
- 決裁者との接点づくり
- 提案後のフォロー
- 失注理由の回収
いずれも、案件のステージか自社の学びのどちらかを前へ進める行動です。逆に言えば、どちらも動かない接触は件数に数えても意味がありません。
Dの基準|顧客課題の5段階
Dはどこまで掘れば十分なのか。顧客が口にした要望から、意思決定条件までの5段階です。

多くの商談は、第1段階の要望で止まります。「研修をしたい」「SFAを入れたい」という言葉を課題として受け取り、そのまま提案に進むためです。しかし要望は顧客が考えた解決策であって、解くべき問題ではありません。
特に重要なのが、第3段階の原因です。スキル不足なのか、商品が弱いのか、ターゲットがずれているのか。ここを誤ると、正しく施策を実行しても成果は出ません。
そして第5段階の意思決定まで見えて初めて、提案は「良い話」から「社内で決められる案件」に変わります。誰が納得すれば進むのか、何もしない場合に何が起きるのか。ここまで握れているかどうかが、受注の分かれ目になります。
Rの基準|応答実行の5ステップ
Rはどう運用するのか。受け取ってから完了を報告するまでの5ステップで、一周ごとに閉じます。

この一周が速く正確であるほど、顧客は「この人に任せれば物事が進む」と感じます。逆に途中で止まると、案件そのものが止まります。
ただし注意したいのは、顧客の依頼をそのまま実行することがRではない点です。たとえば「とりあえず見積だけください」と言われたとき、条件が曖昧なまま金額を出すのは受け身の対応にすぎません。応答実行力の高い営業は、次の点を短く確認したうえで、目的に合う形式と期限を握ります。
- 比較のための見積か、社内予算を取るための見積か
- 決裁時に必要な項目は何か
つまりRとは、返事を早く返すことではなく、次の行動と期限を定めて完了まで閉じることです。
「御用聞き営業」は本当に悪いのか
御用聞き営業はやめるべきなのか。二種類あり、やめるべきは片方だけです。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 受動型御用聞き | 要望の背景を聞かず、できる・できないだけを返す |
| 能動型御用聞き | 顧客の意図を理解し、必要なら問い直し、最短の行動に変える |
営業研修では「御用聞きから提案型へ」とよく言われます。顧客の要望をそのまま聞くだけでは不十分だという点は、CLF PARTNERSも同意します。ただし「御用聞き」という言葉で、素直に頼まれたことを実行する力まで否定してはいけません。
顧客にとって、小さな依頼は営業を見極めるテストでもあります。「この情報をください」「次回までにこの数字を出してください」。ここでの対応が遅く曖昧な相手に、大きなプロジェクトを任せたいとは思わないはずです。したがって、深掘りと素直な実行は対立しません。深く考え、素直に動く。この両立が、実務で選ばれる営業をつくります。
自社の営業をQDRで診断する15の質問
QDRは、15問で自社の状態を測れます。各項目を1点(ほとんどできていない)から5点(安定してできている)で評価してください。判断基準は営業個人の性格ではなく、直近1カ月の行動事実です。
| 軸 | 診断項目 |
|---|---|
| Q量と反復 | 勝率から逆算した必要商談数・接触数が定義されている |
| 狙うべき顧客への有効接触を、週単位で安定して確保している | |
| 一度断られた案件にも、条件やタイミングを変えて追客している | |
| 商談後、必ず次回行動と期限を置いている | |
| 失注理由と顧客反応を記録し、次の活動に再利用している | |
| D課題の深さ | 顧客の要望と、本当に解くべき課題を分けて確認している |
| 課題が生じている原因について、複数の仮説を持っている | |
| 放置した場合の売上・コスト・人・顧客への影響を確認している | |
| 担当者以外の関係者、決裁者、反対者の論点を把握している | |
| 顧客が社内で説明できる言葉と根拠に提案を翻訳している | |
| R応答実行 | すぐに回答できない場合も、受領連絡と回答期限を先に伝えている |
| 顧客の依頼について、目的・期待値・期限を確認している | |
| 商談当日中に議事録または次のアクションを共有している | |
| 約束の期限を守り、遅れる場合は期限前に代案を連絡している | |
| 完了後に報告し、顧客側の次の行動まで確認している |

点数の読み方|最も低い一軸から手をつける
点数はどう読むのか。各軸25点満点のうち、最も低い一軸から手をつけます。三軸の合計を競っても意味はありません。QDRは掛け算で捉えるため、最も低い軸がボトルネックになるためです。
たとえばQ18点、D22点、R11点という結果が出たとします。この場合、ヒアリング研修を増やしてDをさらに伸ばすより、商談後の応答ルールと案件管理を整えるほうが先です。Rが詰まっている限り、深い理解も提案も成果に変わりません。
ただし、自己評価だけで判断しないでください。次のデータと照合する必要があります。
- CRMの履歴
- メールの送信時刻
- 商談の議事録や録画
- 次回アポイントの設定状況
「できているつもり」と「顧客に届いている行動」には、たいてい差があります。
QDRを育てる30日間の実践方法
QDRは精神論では定着しません。「もっと動け」「もっと深く聞け」「もっと早く返せ」では、人によって解釈が変わるためです。必要なのは、望ましい行動を具体化し、実行できる環境をつくること。CLF PARTNERSでは、30日を4週に分け、1週ごとに一つの軸を動かす進め方を推奨しています。
第1週:現状の詰まりを測る
最初の1週間で何をするのか。改善ではなく、計測だけに使います。どこが詰まっているか分からないまま施策を打てば、効かない打ち手に時間を使うことになります。そこで直近20件程度の案件を並べ、どの段階で止まったかを確認します。
- 接触前:ターゲットがずれていなかったか
- 初回商談:課題が要望のまま止まっていなかったか
- 提案前:意思決定条件が見えていたか
- 提案後:次回行動と期限が置かれていたか
- 失注後:理由を回収し、型へ戻したか
ここで注意したいのは、受注率の低さを提案力のせいだと決めつけないことです。商談数が不足しているのかもしれず、課題を見誤ったのかもしれず、単に提案後の連絡が途切れただけかもしれません。案件ごとにQ・D・Rのどれが弱かったかを仮置きすると、組織としてのボトルネックが見えてきます。
第2週:Qを「件数」から「有効行動」へ
Qを動かすには何を変えるのか。KPIの定義を、架電数から案件を一段進める行動へ変えます。架電数やメール数を目標にすると、現場は数字を埋めるために動きます。その結果、母数は増えても案件が育たない状態になります。
そこでKPIを次のように置き換えます。
- 次回アポイント設定数
- 決裁者接続数
- 失注理由回収数
- 休眠案件の再商談化数
- 紹介依頼数
これにより現場は、数字を埋めるためではなく受注確率を上げるために動けます。さらに、営業の型は固定化された台本ではなく、検証する仮説として運用してください。同じ切り口を一定件数試し、反応差を記録し、変える。少数の成功や失敗で毎日方針を変えるのではなく、検証単位を決めて学習します。
第3週:Dを「質問集」から「構造把握」へ
Dを動かすには何を変えるのか。ヒアリング項目を増やすのではなく、質問の順番を5段階にそろえます。項目数を増やしても深さは生まれません。顧客の答えが並ぶだけで、構造として組み上がらないためです。
たとえば「営業研修を検討しています」という顧客には、次の順で進めます。
- 要望:どの層に、どのような研修を考えているか
- 事象:今、数字や行動にどのような差が起きているか
- 原因:スキル、マネジメント、プロセス、商品力のどこに原因がありそうか
- 影響:未達、離職、育成工数、機会損失へどの程度影響しているか
- 意思決定:いつまでに、誰が、何を基準に実施を決めるか
そして商談後のレビューでは、「何を聞いたか」ではなく「顧客の課題構造を一枚で説明できるか」を確認します。説明できない部分が、そのまま次回の質問になります。
第4週:Rを個人の気遣いから組織の標準へ
Rを動かすには何を変えるのか。応答の基準を、個人の裁量からチームのルールへ移します。応答の速さを本人の性格に任せると、必ずばらつきます。
そこで次の点をチームで決めてください。
- 問い合わせ・依頼への受領連絡は、営業時間内なら何時間以内か
- 即答できない場合、回答予定をどう伝えるか
- 商談議事録はいつまでに送るか
- 次回アクションを誰が、どこに記録するか
- 期限遅延が見えた時点で、誰に相談し、どう代案を出すか
ただし、返信速度だけを競わせてはいけません。速いが雑な返信、意図を外した資料、約束したまま未完了のタスクは、Rが高いとは言えないためです。評価する際は、速度・忠実度・完遂度を一つのまとまりとして見てください。
QDRは、会議と採用の基準にも使える
QDRの使い道は、営業の育成だけではありません。営業会議のKPI設計と、採用の評価基準にも転用できます。どちらにも共通するのは、抽象的な印象ではなく行動を具体的に見るという点です。
ここからは、二つの場面での使い方を解説します。
営業会議|KPIを先行・品質・結果の三層で見る
営業会議では何を見るべきか。売上だけでも行動量だけでもなく、先行・品質・結果の三層をつなげて見ます。売上だけを追うと、どこを直せばよいか分かりません。かといって行動量だけを見れば、数字をつくるための形骸化が起きます。
そこでQ・D・Rごとに、三層の指標を置きます。
| 層 | Q:量 | D:深さ | R:応答 |
|---|---|---|---|
| 先行指標 | 有効接触数/次回設定数 | 仮説準備率/決裁者接点率 | 初回反応時間/当日議事録率 |
| 品質指標 | ターゲット適合率/追客継続率 | 影響定量化率/意思決定条件把握率 | 期限遵守率/約束完遂率 |
| 結果指標 | 商談化数/案件創出数 | 提案化率/価格以外の選定率 | 受注率/営業期間・紹介率 |
そして会議では、数字の確認に加えて次の三つを問うてください。
- 今週、どの顧客反応から何を学んだか
- 次週、型のどこを変えて試すか
- チームへ共有すべき成功・失敗は何か
ただし、評価表を配るだけでQDRが定着することはありません。なぜ量が必要なのか、なぜ深く聞くのか、なぜ応答を閉じるのか。それぞれが顧客価値とどうつながるかを、管理職が自分の言葉で伝える必要があります。
採用|「コミュニケーション能力」より行動証拠を見る
営業採用では何を確認すべきか。コミュニケーション能力という曖昧な基準ではなく、過去の行動証拠を見ます。「コミュニケーション能力が高い人」を求めると、評価者によって基準が変わります。話が流暢な人を高く評価し、地道に行動を完遂できる人を見落とすことにもなりかねません。
QDRを使えば、面接で確認すべき点が具体的になります。
- Q:成果が出るまで何を何件、どの期間続けたか。反応を見て型をどう変えたか
- D:顧客の最初の要望と、本当に解くべき課題が違った経験はあるか
- R:即答できない依頼や期限に遅れそうな状況で、どのように顧客へ返したか
いずれも抽象的な自己評価ではなく、具体的な案件、相手、行動、時間、結果で答えてもらってください。さらに可能であれば、模擬商談だけでなく、商談後メールの作成や追加依頼への対応まで選考課題に含めます。商談中の話し方だけでは、応答実行力は見えないためです。
QDRが高くても売れないときは、個人ではなく構造を疑う
三軸を高めても成果が出ないことがあります。そのとき、さらに営業を追い込むのは危険です。市場ニーズ、商品力、ターゲット設定、価格と提供価値のバランス。これらは営業個人の努力では解決できません。原因が構造にある場合、行動量を増やすほど疲弊だけが積み上がります。
営業個人・営業組織・商品競争力で切り分ける
成果が出ないとき、どこから疑うべきか。営業個人・営業組織・商品競争力の三方向から切り分けます。一方向だけを見ると、原因の特定を誤ります。営業個人を疑えば根性論になり、商品だけを疑えば営業改善が止まる。
そこで次の三つを並べて確認します。
- 営業個人:QDRのどこに不足があるか
- 営業組織:戦略、プロセス、マネジメント、ツール、評価は機能しているか
- 商品競争力:顧客が価格以外で選ぶ理由があるか
たとえば商談は取れているのに受注に至らない場合、営業個人のDが浅いのかもしれず、事例や導入支援が不足しているのかもしれません。ターゲットが広すぎて、そもそも刺さらない相手に提案している可能性もあります。
つまりQDRは、営業個人を診るための軸です。三軸が高いのに成果が出ないなら、視点を組織と商品へ移してください。
まず診断し、それから打ち手を選ぶ
打ち手はどう決めるのか。施策を選ぶ前に診断し、原因に合った手段を選びます。CLF PARTNERSが営業支援で重視しているのは、研修ありき、営業代行ありき、コンサルティングありきで考えないことです。原因が商品にあるのに営業研修をしても、現場の負荷が増えるだけで終わります。
組織設計がないまま優秀な営業を一人採用しても、その人の個人技に依存して再現性は残りません。まず診断し、どこが止まっているかを特定し、その原因に合った打ち手を選ぶ。この順番が、再現性のある営業改革には欠かせません。
自社の状態を確認したい場合は、原因の所在に応じて次の窓口をご利用ください。
| 想定される原因 | 確認方法 |
|---|---|
| 営業個人(QDRの不足) | 営業戦闘力診断 |
| 営業組織(戦略・プロセス・評価) | お問い合わせください |
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営業組織力診断とプロダクト・サービス力診断については、個別にご相談を承っています。「行動量を増やしているのに成果が出ない」「研修をしても現場が変わらない」と感じている場合は、施策を増やす前に、どこで成果が止まっているのかを整理するところから始めてください。

よくある質問
Q1. 売れる営業マンに最も重要なのは、行動量とヒアリング力のどちらですか?
どちらか一方ではありません。
行動量は商談機会と学習の母数をつくり、ヒアリング力は顧客ごとの勝ち筋を見つけます。まずは自社の営業プロセスを確認し、商談数が足りないならQ、価格比較が多いならD、提案後に止まるならRから改善してください。
Q2. 御用聞き営業はやめるべきですか?
顧客の言葉を考えずに処理する受動型御用聞きは改善が必要です。
一方、顧客の意図を確認し、小さな依頼を速く確実に完遂する能動型御用聞きは、信頼をつくる重要な営業行動です。深掘りと素直な実行は両立します。
Q3. 営業のレスポンスは、どの程度速ければよいですか?
一律の正解はありません。
まずは自社の営業時間、商材、顧客期待に合わせて受領連絡の基準を決めてください。即答できない場合も、受領したことと回答予定時刻を早く返すことが重要です。速さだけでなく、意図の理解と完了報告まで含めて管理します。
Q4. QDRモデルは、どの営業にも使えますか?
基本的な診断軸として使えますが、各軸の重みは商材によって変わります。
ニーズが顕在化した低単価商材ではQとRの比重が高まり、複雑で高単価なBtoB商材ではDとRの比重が高まります。本記事は、特に商品差が小さくなったBtoB市場を想定しています。
Q5. 営業研修だけでQDRは改善できますか?
知識や練習には研修が有効ですが、定着には営業プロセス、KPI、会議の問い、マネジャーのフィードバック、CRM入力などの環境整備が必要です。
個人のスキルと組織の仕組みを同時に変えることで、成果の再現性が高まります。
まとめ|売れる営業は「深く考え、速く、数多くやり切る」
売れる営業マンを一言で表すなら、話がうまい人ではありません。必要な量を落とさず、顧客の課題を深く捉え、返ってきた反応に素直かつ速く応え、約束を最後まで全うできる人です。三軸はそれぞれ単独では機能しません。
- 量だけでは、間違いを拡大する
- 深さだけでは、仮説が現場に触れない
- 速さだけでは、浅い仕事が増える
Q・D・Rが循環して初めて、行動が学習になり、理解が提案になり、提案が信頼に変わります。そしてこの三つは才能ではなく、行動として定義し、測定し、育成できるものです。だからこそ、採用でも育成でも評価でも、共通の言葉として使えます。
トップセールスを真似るとき、華やかな商談技術だけを抜き出してはいけません。人から見えにくいところで、どれだけ母数をつくり、どれだけ顧客の背景を考え、どれだけ小さな約束を守っているか。再現のヒントは、そこにあります。
CLF PARTNERSでは、営業個人・営業組織・商品競争力の三方向から売上停滞の原因を診断し、戦略設計、実務実行、研修、現場定着まで一貫して支援しています。施策を増やす前に、自社の営業がどこで止まっているのかを整理するところから始めてみてください。
参考文献・関連資料
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Franke, G. R., & Park, J. E. (2006). Salesperson Adaptive Selling Behavior and Customer Orientation: A Meta-Analysis. Journal of Marketing Research, 43(4), 693-702. https://doi.org/10.1509/jmkr.43.4.693
Oldroyd, J. B., McElheran, K., & Elkington, D. (2011). The Short Life of Online Sales Leads. Harvard Business Review, 89(3). https://hbr.org/2011/03/the-short-life-of-online-sales-leads
CLF PARTNERS「『自分で考えろ』では人は動かない 早稲田大・竹内教授と解く”自走する営業組織”のつくり方【前編】」https://clfpartners.co.jp/interview/vol003-1/
CLF PARTNERS「『数字を追うだけ』では人は伸びない 早稲田大・竹内教授と解く”自走する営業組織”のつくり方【後編】」https://clfpartners.co.jp/interview/vol003-2/
CLF PARTNERS「『正論』で組織は動かない。中央大・阿部教授に学ぶ、営業現場を動かす仕掛けとは?」https://clfpartners.co.jp/interview/vol005/
この記事の監修者

CLF PARTNERS株式会社
代表取締役社長 松下 和誉
大学卒業後、大手総合系コンサルティングファームに入社。最年少で営業マネジャーに就任。中小企業から大手企業まで幅広くコンサルティング業務を実施。また、文部科学省からの依頼を受け、再生機構と共に地方の学校再生業務にも従事。 その後、米Digital Equipment Corporation(現ヒューレットパッカード)の教育部門がスピンアウトした世界9ヵ国展開企業のJAPAN営業部長代行として国内の最高売上に貢献。 現在は関連会社12社の経営参画と支援を中心に、グループの軸となるCLF PARTNERS㈱ではVC出資ベンチャー企業、大企業の新規事業の支援に従事
公式Xアカウント:https://x.com/clf_km

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