営業戦略
「無形商材だからか、どれだけ機能を説明しても価値が伝わらず、最後は価格で比較されてしまう」
「商談が半年、1年と長引くうえに関わる人も多く、あと一歩のところで稟議が通らない」
「エンジニアは開発と納品に張り付き、新規営業に人を割く余裕がない」
こうした課題を抱えるIT企業の営業責任者は少なくありません。新規受注が伸び悩むのは、個人の営業力不足や単発の施策のせいではなく、自社の類型と事業フェーズに合った営業戦略が設計されていないからです。
SIer・SaaS・受託開発では、そもそも勝ち筋がまったく異なります。RFP前の潜在フェーズで入り込むのか、トライアル転換と継続率で積み上げるのか、課題起点の提案と技術力の可視化で差別化するのか。自社がどの型で戦うのかを定めて初めて、営業活動に再現性が生まれます。
そこで本記事では、類型別の勝ち筋から、IT企業が直面する営業課題、戦略の立て方5ステップ、新規開拓に有効な手法、成功事例までを体系的に解説します。
累計400社・3,000人以上の支援実績を持つCLF PARTNERSでは、営業戦略の設計から現場定着までを一貫してサポートし、貴社の営業を「勘と気合い」から「再現性のある組織」へと変革します。
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この記事はこんな方におすすめです
- 既存のやり方では新規受注が伸び悩み、打開策が見えていない
- 自社の事業フェーズに合った営業戦略への切り替え方が分からない
- トップ営業に成果が依存し、組織として再現できていない
- IT商材特有の売り方のツボを体系的に押さえたい
目次
【類型別】IT企業における営業戦略とは?
IT企業の営業戦略とは、SIer・SaaS・受託開発という自社の類型に合わせて勝ち筋を設計する方針です。同じ「IT商材」でも、収益構造も意思決定プロセスも異なるため、勝てる型はまったく違います。
SIer|潜在フェーズから先行接触しRFP前に入り込む
SIer営業の勝ち筋は、RFPが出る前の潜在フェーズで接触し、要件定義に自社の強みを織り込むことです。RFPが公開された時点では、要件も評価軸もすでに固まっており、後から入った企業は価格勝負に持ち込まれやすくなります。
逆に、要件が定まる前から顧客に伴走すれば、自社が得意な領域を要件そのものに反映させられます。潜在フェーズで押さえるべき動きは、次の3つです。
- 保守切れや属人化といった課題の予兆を早期にヒアリング
- 顧客と一緒に解決の方向性を描く伴走姿勢
- 自社の得意な技術・体制を要件定義に織り込む提案
つまりSIerは、「案件が生まれる前」に入り込む先行接触こそが差別化の源泉になります。
SaaS|トライアル転換と継続率(チャーン)を軸に設計する
SaaS営業の勝ち筋は、初期獲得より継続率が収益を左右するため、トライアル転換とオンボーディングを軸に設計することです。SaaSは月額課金で長期利用を前提とするため、契約時点の売上より、解約せずに使い続けてもらえるかどうかが事業の成否を決めます。
したがって営業の役割は「売って終わり」ではなく、次の流れまで一貫して設計する必要があります。
- トライアルから本契約への転換率を高める初期提案
- 導入直後に成果を実感させるオンボーディング設計
- チャーン(解約)の予兆を捉える継続的なフォロー
このように、SaaS営業は獲得と定着を分断せず、継続率まで見据えて設計する型が勝ち筋になります。
受託開発|課題起点の提案とPM力・技術の可視化で差別化する
受託開発営業の勝ち筋は、相手の課題を起点に提案し、見えにくい実力を可視化して差別化することです。受託開発は成果物が完成するまで品質が伝わりにくく、機能や単価だけで比較されると価格競争に陥りやすい領域です。
そこで、顧客が本当に解決したい課題から逆算して提案し、自社が信頼に足る理由を具体的に示す姿勢が求められます。可視化すべき要素は、次の3つです。
- 要件変更や納期遅延を防ぐPM(プロジェクト管理)力
- 案件に適した技術スタックの選定根拠
- 過去実績に裏づけられた納期精度
以上のように、受託開発では課題起点の提案と実力の見える化を組み合わせることで、価格比較の土俵から抜け出せます。
IT企業が直面する営業課題とは?
IT企業が直面する営業課題は、無形商材ゆえの伝わりにくさ・商談サイクルの長さ・リソース不足の3つに集約されます。
いずれも個人の営業力ではなく構造に起因する課題であり、戦略設計で乗り越える対象です。ここでは、3つの課題を順に整理します。
無形商材ゆえに価値や差別化が伝わりにくい
IT商材は形がなく効果も見えにくいため、機能を説明するだけでは価値も差別化も買い手に伝わりません。ソフトウェアやシステムは導入前に成果を確かめられず、比較の物差しも買い手側にないことが多いためです。
実際、IT・SaaS製品選びの悩みを尋ねた調査では、次の結果が出ています。
- 「製品が自社に合うかがわからない」51.5%
- 「自社に合う選択軸がわからない」43.6%
- 「製品の正しい評価が把握できない」40.6%
つまり、買い手の過半数が「自社に合うかどうか」を判断できずにいます。この状態を放置すると、最後は価格でしか比較されません。したがって、機能ではなく課題解決価値へ翻訳して伝える設計が不可欠になります。
参考:67.4%の経営者がSaaS製品の導入失敗を経験 3割は「何度もある」/アイティクラウド調査
商談サイクルが長く意思決定者(DMU)も多く受注に至りにくい
IT購買は検討から契約まで数カ月〜1年かかり、複数部門の合意も必要なため、受注に至りにくい構造があります。導入がデータ連携・セキュリティ・現場の業務フローまで影響し、関わる人数と検討工数が自然と増えるためです。
実際、複雑なBtoBソリューションの購買では、6〜10人の意思決定者が関与するとされています。関与者が増えるほど、次のリスクが高まります。
- 情シス・経営・財務など、部門ごとに評価軸が異なる
- 誰か一人の反対で稟議が止まり失注する
- 各人が独自に情報収集し、認識がずれる
このように、DMUが多いIT購買では、全員が承認できる理由を用意しなければ受注は決まりません。
参考:Mapping the B2B Buying Committee: 10 Roles, Strategies, and Best Practices
IT人材不足で開発に人手を取られ、新規営業に十分なリソースを割けない
IT企業は慢性的な人材不足のため、技術者が開発・納品に張り付き、新規営業に人を割きにくい状況にあります。限られたエンジニアが既存案件の対応に追われ、営業活動へ回す余力が生まれないためです。
経済産業省の推計では、IT人材の不足は2030年に最大約79万人へ拡大すると見込まれています。人手不足のもとでは、次の対応が現実解になります。
- 狙う顧客を勝率の高い層に絞り込む
- インサイドセールスで商談化を効率化する
- AIツールで初回接触や選別を自動化する
したがって、リソースが限られるIT企業ほど、営業の一つひとつを「絞って効率化する」戦略設計が成果を左右します。
参考:IT分野について|経済産業省 商務情報政策局情報処理振興課
IT営業戦略の立て方【5ステップ】

IT営業戦略は、現状分析→ターゲット設定→目標設定→戦術の具体化→実行と改善の5ステップで立てます。ここでは、中堅SIerを例に各ステップを具体的に見ていきます。
①現状分析|市場・競合・自社を3Cで把握する
現状分析では、市場・競合・自社を3Cで分析し、勝てる領域(KSF=重要成功要因)を見極めます。全方位で戦うとリソースが分散し、強い競合と価格で殴り合うことになるためです。
たとえば、ある中堅SIerが3C分析を行い、「従業員300名規模の製造業/基幹システムの老朽化」という案件で自社の勝率が高いと分かったと仮定します。この分析結果は、次のように現場の動きへ落とし込めます。
- 狙う業種・規模を「300名規模の製造業」に絞る
- 老朽化の兆候(保守切れ・属人化)をヒアリング項目に組み込む
- 競合が弱い保守体制を、提案の切り口に据える
つまり3C分析は、きれいな資料を作るためではなく、「誰に・何を・どう語るか」を決めるために行います。
②ターゲット設定|ICP・ペルソナを定義する
ターゲット設定では、最も価値の高い顧客像(ICP)と、その中で会うべき担当者像(ペルソナ)を定義します。「製造業なら全部」といった粗い括りでは、刺さるメッセージも接触ルートも定まらないためです。先ほど仮定した中堅SIerであれば、ICPとペルソナを次のように具体化できます。
- ICP:従業員300名前後・製造業・基幹システムが10年以上稼働・情シス部門が2〜3名と手薄
- ペルソナ:情シス課長(システム停止リスクに神経を尖らせる)と、経営企画部長(コスト圧縮と事業継続を重視)
このように、ICPで「どの企業を狙うか」を絞り、ペルソナで「誰の、どの不安に語りかけるか」まで定めます。そこまで具体化して初めて、提案の言葉が一人ひとりに届きます。
③目標設定|KGI・KPIを設計する
目標設定では、最終ゴール(KGI)を商談数・受注率・単価などのKPIに分解し、測定可能にします。「売上を伸ばす」だけでは、どこが詰まっているのか誰も判断できないためです。たとえば「年間新規受注1.2億円」というKGIを掲げたと仮定すると、次のように分解できます。
- 平均単価400万円 → 必要な受注件数は年30件
- 受注率20%と置くと、必要な商談数は年150件
- 商談化率10%なら、必要なリード数は年1,500件
こうして数字を連鎖させると、「リードが足りないのか、商談化で落ちているのか、受注率が低いのか」を切り分けられます。
④戦術の具体化|営業プロセスと打ち手を落とし込む
戦術の具体化では、ターゲットに届けるメッセージ・チャネル・アクションを5W1Hまで落とし込みます。KPIという「目標の数字」を、現場が明日動ける「具体的な行動」に翻訳する工程だからです。先ほどの情シス課長(ペルソナ)に向けた打ち手であれば、たとえば次のように設計できます。
- メッセージ:「基幹システムの保守切れリスクと、その放置コスト」を切り口にする
- チャネル:製造業向けセミナーと、老朽化事例のホワイトペーパーで接触する
- アクション:資料DL後3日以内にインサイドセールスが架電し、現状ヒアリングの場を打診する
このように、誰に・いつ・どの言葉で・何をするかまで決めると、施策が「やってみた」で終わらず再現できます。
⑤実行と改善|PDCAサイクルを回す
実行と改善では、実行→KPI検証→改善のPDCAを回し、市場や顧客の変化に合わせて最適化し続けます。IT市場は技術も競合も動きが速く、一度作った戦略もすぐに実態とずれるためです。たとえば運用を進める中で、次のような検証と打ち手が生まれると想定できます。
- 商談数は足りているのに受注率が10%で停滞 → 提案内容ではなく「稟議を通す材料不足」を疑う
- 財務向けのROI試算シートを提案に追加 → 受注率が18%へ改善
- 効いた打ち手をトークスクリプトへ反映し、他メンバーへ横展開する
このように、PDCAは戦略を「一度作って終わり」にせず、勝ちパターンを組織の資産へ変えていく仕組みです。
AI時代にIT企業の営業戦略はどう変わるか
AI時代のIT営業戦略は、「買い手の情報収集」「売り手の営業プロセス」「エンジニアの関わり方」の3方向で変わります。
いずれもAIが商談前後の主導権を握り始めたことによる変化です。ここでは、買い手・売り手・新職種の順に見ていきます。
買い手の変化|バイヤーはAIで比較を済ませてから商談に来る
BtoBの買い手は、商談前にAIで比較検討を終えてから営業と接触するようになりました。生成AIが複数ベンダーの情報を数分で要約し、候補リスト(ショートリスト)まで作ってしまうためです。実際、G2の調査では、買い手の行動が次のように変化しています。
- 71%がソフトウェア調査の過程でAIチャットボットを利用
- 51%がGoogleより先にAIチャットボットで調査を開始
- 69%がAIの回答をきっかけに、当初と違うベンダーを選択
つまり、AIの回答に自社が載らなければ、検討の土俵にすら上がれません。したがって、AI検索やLLMの回答で想起される状態づくり(AIO/LLMO)が、これからの営業戦略に不可欠な要素となります。
参考:G2「The Answer Economy: 2026 AI Search Insight Report」
商談の入り口で「もう他社さんと比べ終えてますよね」と感じる場面が明らかに増えました。ChatGPTが出した3社の比較表を、そのまま印刷して持ってくるお客様もいます。この状態で機能説明から入ると、「それはもう知ってます」で終わる。AIが要約しきれない“自社の業務ならではの前提”を、こちらから問い直せる営業だけが、比較表の外に出られます。
売り手の変化|AI SDR・インテントデータで営業プロセスが変わる
売り手側では、AIツールが営業プロセスの一部を自動化し、少人数でも新規開拓を回せるようになりました。前章で触れたとおり、IT企業は人材不足で営業に人を割きにくいため、リソースの薄い企業ほどAI活用の意義が大きくなります。具体的には、次の3カテゴリのツールが実用段階にあります。
| カテゴリ | 役割 | 代表的なツール |
|---|---|---|
| インテントデータ | 検討行動を示す企業だけに接触を絞る | Sales Marker |
| AI SDR | リード選別・初回接触・日程調整を自動化する | Salesforce Einstein SDR Agent/HubSpot Breeze |
| 商談解析AI | トップ営業のトークを型化し、組織へ横展開する | MiiTel/amptalk |
このように、AIは「人手をかけずに、勝率の高い相手へ集中する」ための武器になります。
FDE(Forward Deployed Engineer)|「作りながら売る」新しい営業モデル
FDE(Forward Deployed Engineer)とは、自社プロダクトを持ったまま顧客の現場に入り、課題発見から実装・定着までを担う職種です。「作りながら売る」ことで、無形商材の価値を机上の提案ではなく実物で証明できる点が、従来の営業と根本的に異なります。
要件が固まるのを待つプリセールスSE(提案支援が主)とは、立ち位置がまったく違います。この職種は、いま世界的に急拡大しています。
- 発祥はPalantir。顧客現場に埋め込む deployment モデルで実績を築いた
- OpenAIは2026年5月にThe Deployment Companyを設立し、コンサル企業Tomoroの買収で約150名のFDEを擁する
- FDE求人はIndeed上で前年比729%増(643件→5,330件、2025年4月→2026年4月)
日本でも、LayerX・ログラス・ソフトバンク(SB OAI Japan)などがFDEの採用を開始しています。つまりFDEは、SIerや受託開発が「現場で価値を作って見せる」提案へ進む道筋を示しています。
参考:Job postings for this tech role have grown more than 700% in the last year
参考:PYMNTS「OpenAI Launches $4 Billion Company to Accelerate Enterprise AI Adoption」
FDEを「エンジニアが営業も兼ねる職種」と捉えると、たいてい失敗します。本質は、提案書で価値を約束するのをやめて、その場で動くものを見せて証明することにあります。無形商材のつらさは「効果が見えない」点にあるので、小さくても実物が動けば、稟議の景色が変わる。SIerや受託の方こそ、既存の技術力をこの“見せる提案”に振り向ける余地が大きいはずです。
AI SDRやFDEといった新しい打ち手も、自社の営業設計が旧来のままでは成果につながりません。何をどう取り入れるべきかは自社だけでは見極めにくく、だからこそプロの目が必要です。CLF PARTNERSの営業研修が、AI時代に成果を出す営業力を現場に根づかせます。
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IT企業の新規開拓に有効な営業手法
IT企業の新規開拓には、インバウンドマーケティング・インサイドセールス・インサイト型提案の3つが有効です。いずれも、検討期間が長く情報収集が先行するIT購買の特性にかみ合った手法です。ここでは、見つけてもらう→育てる→抜きん出る、の順に解説します。
インバウンドマーケティングで見込み客に見つけてもらう
インバウンドマーケティングとは、見込み客に自ら見つけてもらう手法で、リソースの薄いIT企業ほど効果的です。
IT商材は検討期間が長く、購買前に買い手が情報収集を済ませるため、その段階で接触できる仕組みが効いてきます。具体的には、次のような施策で「見つけてもらう入口」を用意します。
- オウンドメディア(自社ブログ・コラム)
- ホワイトペーパー(お役立ち資料)
- 導入事例(他社の成功ストーリー)
このとき、検索エンジンで見つけてもらうSEOは、インバウンドの一手法という位置づけになります。加えて現在は、生成AIの回答に引用されるためのAIO(AI Optimization)も重要です。つまり、検索とAI回答の両面で見つかる状態をつくる設計が、「探しに行く」営業からの転換を後押しします。
インサイドセールスでリードを育成し商談化する
インサイドセールスとは、獲得したリードを電話やメールで育成し、商談化までつなぐ内勤型の営業手法です。インバウンドで集めた見込み客も、多くはすぐには買わないため、関係を温めて機が熟したタイミングを逃さない役割が要ります。
実際のインサイドセールスは、次のような動きで商談化率を高めます。
- 資料DL後の早期フォロー(熱量が高いうちに接触)
- 検討段階に応じた情報提供(事例・比較・試算など)
- 確度の見極めと、フィールドセールスへの的確なパス
顧客の潜在課題を先回りする「インサイト型」の提案を行う
インサイト型提案とは、顧客がまだ気づいていない課題や機会を先回りして提示する手法です。前提として、顧客が自覚している課題に応えるのがソリューション営業ですが、IT購買では買い手の情報収集が進んでおり、顕在課題への提案は競合と横並びになりがちです。
そこで一歩進め、論点そのものを提示して差別化します。両者の違いは、たとえば次のように表れます。
- ソリューション型:顧客が「勤怠管理システムを入れたい」と言えば、要望どおりに提案する
- インサイト型:業界データや他社事例をもとに「そもそも承認フローの分散が根本原因では」と論点を提示する
このように、要望に応えるだけでなく、隠れた真因に先回りできる営業が信頼を勝ち取ります。したがって、インサイト型の提案こそが、価格比較の土俵から抜け出す決め手になります。
インサイト型というと難しく聞こえますが、要は「お客様が言った要望を、そのまま提案書にしない」ことです。「勤怠システムが欲しい」と言われて勤怠システムを出すと、必ず相見積もりになります。そこで一度「その打刻データ、結局誰が何に使うんですか」と聞くと、話が経費精算や人事評価まで広がる。顕在化した要望の“ひとつ手前”を聞けるかどうかで、価格勝負を避けられます。
IT営業戦略を成功させるためのポイント
IT営業戦略を成功させるポイントは、「価値翻訳」「DMU全員の納得」「導入後まで見せる」の3点です。ここでは、現場で使える3つのコツを解説します。
機能ではなく「課題解決価値」に翻訳して伝える
IT営業では、機能そのものではなく「その機能が何を解決するか」に翻訳して伝えると刺さります。買い手が知りたいのは仕様の一覧ではなく、自社の課題がどう片づくかだからです。機能を並べるだけの説明は、聞き手の中で「だから何?」で止まってしまいます。
たとえば、勤怠管理システムを売る場面では、次のように語り分けられます。
- 機能ベース:「打刻はスマホ・PC・ICカードに対応しています」
- 価値ベース:「打刻漏れの月末修正がゼロになり、労務担当の残業を月10時間削減できます」
このように、技術仕様をビジネス価値へ翻訳すると、相手は自分ごととして受け取れます。つまり、「何ができるか」ではなく「何が解決するか」で語ることが、価格比較を避ける第一歩になります。
DMU全員が承認できる理由を用意し、制約も正直に伝える
IT購買を勝ち切るには、DMU(意思決定関与者)全員が承認できる理由を用意し、あわせて制約も正直に伝えることが有効です。前章のとおり、複雑なBtoB購買では6〜10人が関与し、誰か一人の反対で稟議が止まるため、立場ごとの納得材料が要ります。
具体的には、次のように役割別の承認理由を設計します。
- 現場:日々の業務がラクになる(操作性・工数削減)
- 情シス:既存システムと安全に連携できる(セキュリティ・運用負荷)
- 経営:事業目標に効く(生産性・成長への貢献)
- 財務:投資回収の見通しが立つ(ROI・コスト根拠)
加えて、できない点を先に開示し、代替案をセットで示すと、かえって信頼を得られます。したがって、全員分の「YESと言える理由」を揃える設計が、長い稟議を通す近道になります。
導入後の成功設計と中間接触で長期商談を勝ち切る
長期商談を勝ち切るには、導入後の成功設計まで提案に含め、商談中も定期的に接触することが重要です。IT商材の検討は数カ月〜1年に及ぶため、「売って終わり」の提案では不安を拭えず、長い検討期間中に競合へ流れるリスクもあります。
そこで、次の2軸で「選ばれ続ける状態」をつくります。
- 導入後の設計を見せる:導入計画・教育プラン・マイルストーンまで提案に含め、「導入後の安心感」で選ばれる
- 商談中の中間接触:事例・試算シート・活用イメージを持って定期的に接触し、熱量の低下と失注を防ぐ
このように、契約後の成功像まで描き、商談期間中も接点を絶やさないことが、長期戦を勝ち抜く決め手です。結果として、価格ではなく「導入後まで任せられる安心感」で選ばれる営業になります。
解説した打ち手を自社にどう落とし込むかは、一社ごとに答えが変わります。CLF PARTNERSでは、営業課題を60分で整理する無料の壁打ち会を実施中です。

IT営業戦略の成功事例
IT営業戦略は、標準化・型化によって成果を伸ばした事例が数多くあります。ここでは、インサイドセールスの商談数を伸ばしたSmartHRと、提案の型化で受注件数を伸ばしたジャパンコンピューターサービスの2社を紹介します。
SmartHR|営業手法の標準化でインサイドセールスの商談数2.5倍
SmartHRは、営業手法の標準化により、インサイドセールスの商談数を約1年で2.5倍に伸ばしました。
訪問営業が中心だった頃は、営業メンバーごとに使う資料もやり方も異なり、成果が属人化していたためです。そこで、オンライン商談ツールを活用し、次のような標準化に取り組みました。
- 営業資料をツール上に登録し、社内で共有できる状態にした
- 顧客の規模・業種に応じて最適な資料を選べるよう整理した
- 商談録画を新人教育に使い、先輩の商談知見を横展開した
結果として、訪問営業の半分以下の人数で同等の商談数をこなし、受注率も訪問営業とほぼ変わらない水準を実現しています。つまり、営業手法の標準化が、少人数でも成果を出せる組織づくりに直結した事例です。
参考:営業手法の標準化で、商談数2.5倍!SmartHR流・SDRとの連携方法にも注目!
ジャパンコンピューターサービス|提案の型化で受注件数1.5倍・商談対応工数80%削減
ジャパンコンピューターサービスは、提案の型化によって受注件数を1.5倍に伸ばし、商談対応工数を80%削減しました。
SI(受託開発)を本業とする同社(従業員約280名)が、ローコードSaaS(kintone)のSI・再販事業を新規で立ち上げた際の事例です。エンジニア出身の技術営業4名体制で、商談後は反応待ち、どこが刺さったかも個人の感覚頼みという課題を抱えていました。
そこで「論点は属人化させない」という方針のもと、次の仕組みを整えました。
- ユースケース別の提案テンプレート
- 顧客ごとの専用デモ環境
- 技術力を訴求する専用ページ
その結果、誰が担当しても一定品質で提案できる状態が生まれ、二次請け中心の体制から、プライム案件が大半を占める体制へ転換しました。つまり、提案の型化が受注と工数の両面で成果を生んだ事例です。
参考:SIerの技術営業が、ゼロから新規を獲れるように新規事業の営業構造転換
IT企業の営業戦略でよくある質問
IT企業の営業戦略でよくある質問を紹介します。
営業戦略と営業戦術の違いは?
営業戦略と営業戦術の違いは、「誰に・何を・なぜ売るか」という方針か、「どう売るか」という手段かにあります。
戦略が向かう方向を決め、戦術がその実現手段を担う関係です。したがって、戦略のない戦術は場当たり的になり、努力が成果に結びつきません。本記事の5ステップでいえば、①現状分析〜③目標設定が戦略、④戦術の具体化が戦術にあたります。
まず戦略で狙いを定め、その上で戦術を組むという順序が、再現性ある営業の前提になります。
営業戦略の見直しはどのくらいの頻度で行うべき?
営業戦略の見直しは、全体を年1回、KPIは月次で検証するのが基本です。
IT市場は技術も競合も変化が速く、年1回の見直しだけでは対応が後手に回るためです。ただし、戦略そのものを頻繁に変えると現場が混乱します。そこで、「戦略は年次・戦術は四半期・KPIは月次」と階層を分けて運用すると、大方針の安定と現場の柔軟さを両立できます。
つまり、変えるべき部分と守るべき部分を層で切り分けることが、見直しのコツです。
営業リソースが少ない中小IT企業は何から始めるべき?
営業リソースが少ない中小IT企業は、まずICP(理想的な顧客像)の絞り込みから始めるべきです。
人員を増やせない前提では、狙う顧客を広げるほど一社あたりの対応が薄くなり、勝率が下がるためです。そこで、勝率の高い顧客層に狙いを絞り、そこへリソースを集中させます。
その上で、インサイドセールスで効率的に商談化する流れをつくると、少人数でも新規開拓が回り始めます。つまり、「広げる」より「絞る」が、リソース不足を乗り越える出発点です。
まとめ|自社に合ったIT営業戦略で新規受注を伸ばそう
IT企業の新規受注が伸び悩む原因は、個人の営業力不足ではなく、自社の類型と事業フェーズに合った営業戦略が設計されていないことにあります。SIer・SaaS・受託開発では勝ち筋がまったく異なり、まず自社がどの型で戦うのかを定めて初めて、営業活動に再現性が生まれます。
そして、AIで比較を終えてから商談に来る買い手が増える今、「勘と気合い」を「再現性のある仕組み」へ変える発想がますます重要になっています。とはいえ、戦略の設計から現場への定着までを自社だけで進めるのは、決して簡単ではありません。
累計400社・3,000人以上の支援実績を持つCLF PARTNERSでは、営業戦略の設計から現場定着までを一貫してサポートし、貴社の営業を「勘と気合い」から「再現性のある組織」へと変革します。自社に合ったIT営業戦略の立て方にお悩みの方は、まずはサービス紹介資料をご覧ください。
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この記事の監修者

CLF PARTNERS株式会社
代表取締役社長 松下 和誉
大学卒業後、大手総合系コンサルティングファームに入社。最年少で営業マネジャーに就任。中小企業から大手企業まで幅広くコンサルティング業務を実施。また、文部科学省からの依頼を受け、再生機構と共に地方の学校再生業務にも従事。 その後、米Digital Equipment Corporation(現ヒューレットパッカード)の教育部門がスピンアウトした世界9ヵ国展開企業のJAPAN営業部長代行として国内の最高売上に貢献。 現在は関連会社12社の経営参画と支援を中心に、グループの軸となるCLF PARTNERS㈱ではVC出資ベンチャー企業、大企業の新規事業の支援に従事
公式Xアカウント:https://x.com/clf_km




