最強の営業組織の設計図|日々の対話でチームは強くなる

社会が混迷を極める中、自ら考え、自ら動ける課題解決能力がこれまで以上に求められています。
そんな人材が集まった「最強の営業組織」になるには、何が必要なのでしょうか。
数多くの企業や公共機関での調査を行い、組織論に関する著書を多数執筆している、京都橘大学の山口裕幸教授に伺いました。

■取材協力先プロフィール

山口 裕幸

京都橘大学 総合心理学部 教授

1981年九州大学 教育学部卒業。88年九州大学大学院 教育学研究科(教育心理学) 修士課程修了。97年同博士課程修了。博士。日本学術振興会特別研究員、岡山大学 文学部助教授、九州大学大学院 人間環境学研究院准教授、九州大学 教育学部学部長、九州大学大学院 人間環境学研究院教授、九州大学名誉教授を経て、2024年4月より現職。『新版・チームワークの心理学―持続可能性の高い集団づくりを目指して』(サイエンス社)、『そうだったんだ!! 心理的安全性』(永岡書店)など、著書多数。

ミッションが共有できているチームは、逆境の中でも前を向ける

松下和誉(以下、「松下」)

成果を出すチーム、強いチームの共通点はありますか。

山口裕幸教授(以下、「山口」)

チームワークの研究を始めたとき、最初に掲げたテーマが、まさに「強いチームは、どこが違うのか?」というものでした。企業や公共機関など、さまざまな組織に出向いて話を聞き、観察を続けた結果、一番のポイントだと分かったのがimplicit coordination(暗黙の協調)というものでした。

暗黙の協調とは、メンバー間で「自分がいま何をすべきか」が互いに分かっていて、相手がどう考えているかも分かっているような状態です。チームの課題や解決方法、役割などについて、メンバー同士が共通認識を持っているからこそ、広い視野を持って瞬時に動ける。自分のことだけではなく、「他のメンバーはどうするだろうか?」という視点が持てているかどうかもポイントです。

併せて、なぜ自分たちはこのチームで頑張るのかといった「ミッションの共有」も大事です。仕事では、行き詰まることや失敗することもありますよね。特にリーマンショックのように、自分たちのせいではない所で大損害を被ると、気持ちが萎えてしまうこともあると思います。

そんな時、「自分たちのやろうとしていることは大切なことだから、それでも頑張らないと」と、折れかけた心を立て直して、目標達成に向かえるかどうか。ミッションを共有できていると、そうしたレジリエンスを発揮できます。 目標には短期的なものもありますが、ミッションは長期的にやり遂げようとしていることを指します。それを共有できていると暗黙の協調につながり、「自分の役割さえ果たせばいい」というレベルでは終わらない。「チームとして、こういうことが必要だけど、考えてみたら、やる人がいない。それなら自分がやっておくか」といった具合に、溝を埋めていくことを誰もがやれるチームは強いですね。

ミッションの共有は「日々の対話」から

松下

半期を終えた頃や期初に、チームでミッションを確認し合うことは、どの組織でもあると思います。しかし、各メンバーの意識にしっかり落とし込むには、もっと頻繁に確認し合うことが大事かもしれませんね。

山口

ミッションの共有は、ある意味、染みついていくようなものなので、「何のために働くのか」といったことは日々の生活の中で繰り返し話せるのが理想的です。こうしたことは、右も左も分からない新人が一人で考えるには無理があります。上から教わって、染み込んでいくものだと思います。

実は私も、大学卒業後は企業に就職して、営業の仕事をしていたのですが、「たくさん売って、シェアを上げて、利益を出せばいいんだろう」という感覚でしか働いていませんでしたし、先輩からもそれくらいしか教わりませんでした。しかし、営業の仕事は、契約が取れなかったり、面と向かって断られるなど、辛いことも少なくないため、頑張る理由としてそれだけでは不十分だと思うこともありました。「目標達成できなかったら、会社の経営が苦しくなる。それで僕らの将来がどうなるというのだろう」と、私も若い頃は考えていましたね。

私は医療機関、裁判所、自衛隊、警察署、消防署など「何のために頑張るのか」という理由がはっきりしていそうな職場の方々にも、よく話を聞きに行きますが、そうした方々の中にも、何のために頑張るのかが分からなくなって離職する人は多いです。「社会のためになる仕事だから、自分は頑張るんだ」といった意義づけをできている人は頑張れる一方で、「給料や安定のためにこの仕事をしている」といったモチベーションの人は、「もっといい仕事があるんじゃないか」と思ってしまうわけです。

「何のためにこの仕事をしているのか」「どこに向かって頑張っているのか」というミッションの共有は、上から正解を押しつけるのではなく、対話型でできるといいですね。上から言われたことを頭で分かっているだけの状態と、対話を通して自分の実感として掘り下げられている状態では、パフォーマンスにも差が出ますから。

リーダーが先に喋ってはいけない

松下

日々の対話を通してミッションを共有することが、強い組織づくりには不可欠なのですね。では、どのようにすれば、対話が生まれるようになるでしょうか。

山口

一番大事なのは、リーダーが先に発言しないことです。リーダーが「私の方針としては、こうなんだ」と先に言ってしまうと、メンバーは聞き入れるしかない。それでは対話になりません。

リーダーは質問を準備して、メンバーが発言しやすい環境を設定する。そうやって対話を促すのが大事です。質問して、相手が話し始めたら、ちゃんと耳を傾けて、次のキャッチボールになるようにする。リーダーが話を聞く側に回ることも大事です。

当然、リーダーの考え方を示す場面も必要ですが、それに対して各メンバーが意見を言っていい雰囲気も大切です。多少意見が対立しても、双方が腹を割って話せるかどうか。もし「できるだけ楽をしたい」といった易きに流れたがる空気がメンバー間に生まれていたら、そこを正すリーダーシップは必要ですが、基本的には部下に寄り添い、部下が力を発揮できるよう下支えしてあげる姿勢が望ましいですね。 これは1970年代にロバート・グリーンリーフが提唱した「サーバントリーダーシップ」という考え方なのですが、今でも根強く支持されています。部下が主体性を持って自分の仕事を考える方向へ転換していかないと、組織はいつまでたっても変わらないと研究者たちが考えているからだと思います。

雑談での「ちょっとしたぶつかり合い」が、チームを強くする

松下

対話の中で、誰かから否定的な意見が出たとしても、それを受け止めながら前向きに話せるような組織になるには、どうすればいいでしょうか。

山口

最近研究レベルでも分かってきたのは、雑談の有効性です。休憩時間にお茶を飲みながら、あるいは昼食を取りながら、チームの仲間と他愛もないことを話す。例えば、オフィスの喫煙コーナーのようなリラックスした状態で、仕事とは関係ない話題を自由に話して。こうした雑談が良好なチームの関係を作ります。

仕事の話だと、それぞれの責任や立場があるので、意見が対立すると深刻な状態に陥りやすいですが、ジャイアンツが調子が悪いとか、タイガースが今年もまた優勝しそうだとか、そういうところで話が多少ぶつかり合ったとしても、たいした傷にはなりません。

こんなふうに深刻にならない話題でちょっとしたぶつかり合いをやっておくと、「この人にはこういうところがあるんだ」「この人はこういうことを大切にしてるんだな」といった、仲間の人となりが分かります。こうした関係性を作っておくことが大事です。

また、仕事の話し合いでは、意見を闘わせるよりは、互いに意見を聞き合うことを中心にした対話型のほうが、チームワークの醸成に有効です。とは言え、ディスカッションが不要ということではありません。会議で方針や結論を出すときなど、ディスカッションが必要な場面も当然あります。

私が研究で関わったある企業では、リーダーが呼びかけて、毎週決まった曜日の決まった時間から、一緒にお茶を飲みながら30分程度話をするミーティングの機会を持つことにしました。その際には「今現在の仕事ではなく、将来のことについて意見を交換しましょう」というテーマを設けました。

目下取り組んでいる仕事の話題だと、「どうするか」といった結論を出さなければいけませんが、「将来こんな仕事がしたい」といった話なら、対立的にならずに、それぞれの想いが出やすいからです。この取り組みを通して気付いたのは、「最近はメンバー同士の対話が随分減っているんだな」ということでした。「このチームに入って2年になりますが、メンバーと会議以外で話したことはありません」という人もいました。

不確実な時代には、メンバー一人一人の考えが貴重なリソース

松下

最近はオンライン会議が中心で、チームメンバー同士が接したり、仕事以外の話をする機会はあまりない組織も増えています。そうなると、会議の回数は多くても、チームとしては弱くなるという話を聞いたことがあります。

山口

そういう場合は、メンバー間の対話の機会を増やす環境設計をしてあげたほうがいいです。

いま私たちは、正解がどこにあるのか分からないような時代にいます。そのような時代には、一人一人が考えていることが、大きなリソースです。みんなが持っているリソースを生かす工夫をしたほうがいい。現場でも考えてもらって、上からも意見は言う。だけどそれは、指示とか命令ではなく、自分たちの考え方を提示する。こうしたことをフラットに行えるように、職務環境を設計しなければならない時代だと思います。

トップが優秀なら、その人が意思決定をして、下の人が全部それに従っても良さそうなものですが、これだけ予測不可能な時代ですから、優秀な人でも間違えます。もしトップが間違えたとき、上意下達型の組織だと、下まで全部間違ってしまうことになります。

裁量を与える勇気を持てば、チームは自走し始める

松下

強いチームにするために、対話を増やすこと以外に大事なことはありますか。

山口

現場の一人一人が自分で判断できるような、裁量を与えることが大事だと思います。仕事で判断をするときに、上司に相談しなければならない事柄がありますよね。さらには、稟議書を書いて上に上げなきゃいけないとか。こうなると、難しい問題になればなるほど、全部上に委ねるしかない。自分の意見が持ちにくくなると思います。

松下

「自分には権限がないから」といった姿勢に陥ってしまう。」

山口

言い訳がそこにあるわけです。だから、自分たちで意見を闘わせて、こうしようと決めたら、それでやる。安易な判断で失敗したら、そこの責任は自分たちで取る。そういうデザインにすると、各人が真剣に考えるようになります。

とは言え、裁量と責任を与えた結果、メンバーが萎縮して、確実にできそうなことしか選ばないようになることもあります。そこで大事なのが、失敗やミスを責めないことです。なぜうまくいかなかったかは反省してもらうけれど、ネガティブな評価は与えない。それはまさに現場にいる人たちのリソースをうまく使う工夫だと思うんです。

自分たちで考えてやってみて、うまくいったら続ければいいし、うまくいかなかったら反省して、次はどうしたらいいのかを考えて。こうしたサイクルを自ら回せるチームは強いです。そのためには、まずリーダー側が、判断を委ねる勇気を持つことだと思います。

松下

組織の中には、自分で考えることよりも、与えられた仕事をきちんと仕上げるほうが合っている人もいませんか。

山口

いると思いますが、その種の仕事は、あと4,5年で生成AIが代替するようになるのではないでしょうか。

生成AIにやらせるのが難しいのは、方向性を決定することや、新しい挑戦を思いつくといったことです。そこを我々人間がやっていくほうがいいと思います。

生成AIが出してきた分析結果を見て、どうするかを話し合う。そのとき、みんなが黙り込まないで意見が言えるような組織デザインをしていく必要があると思います。そのためにも、話を聞くことに重きを置いたコミュニケーションの取り方を、まずは上に立つ人たちから始めてほしいですね。

対話ができる組織は、「最悪の事態」を回避できる

松下

これからの不確実な時代、自分で答えを出せるチームは強いし、そうしたチームを作るために、対話できる組織をデザインすることが重要だとよくわかりました。

山口

私の研究では、例えば鉄道会社や電力会社のように、事故を防ぐことが求められる組織で調査を行うことも多いです。どうすればミスを防いでセキュリティを守れるのか。その答えは、繰り返しになりますが、一人一人が思っていることや考えていることを伝え合い、たとえ耳の痛いことを言われても、それを生かしていくことです。

メンバーの10人中9人が気付かなくても、1人が気付いて、それを共有すれば事故やミスは防げます。そのためには、気付いた1人に声を上げてもらう必要がある。しかしながら、気付いていた人が黙ってしまった結果、共有がなされず、事故が起こるケースは本当に多いです。

松下

現場の人は、気付いているものなんですね。

山口

さらに、安全を守る組織においては、最悪の場面や常識を超えた場面を想定することも非常に大事です。その際にはトップだけではなく、できるだけ多くの現場の人間を巻き込んで話し合うほうがいい。お互いに思っていることを屈託なく言い合えると、「それは大事だね」と共有して、事故を未然に防げます。

松下

「最悪のケースをみんなで話してみましょう」という議論は営業チームにも有効だと思います。「最高のケース」も併せて、ざっくばらんに話し合うのも面白そうですね!

今日から雑談、始めてみませんか

答えが一つではない時代、大抵のことはAIが代わりにやってくれる時代が来ています。

そんな時代に、何が問題かを見極め、「これをやる」と決断できる力や、決めたことを心折れずにやり遂げるためのレジリエンスは、AIでは代替できない強みとなります。

こうした力を発揮できるチームになるには、日々の対話が不可欠だと、山口先生は教えてくださいました。

ポイントは「リーダーは質問を投げかけ、後は聞き役に徹する」「雑談をしながら、自由に話せる雰囲気を作る」の2点。

あなたがチームのリーダーで、メンバーの成長を望んでいるのなら、早速今日から、そしてあなたから、メンバーに雑談をしてみませんか。

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