毎日行う「営業」こそ、体系化してアップデートすべき!拓殖大・北中教授と語る「今の営業」

「営業」をアップデートできていますか?

昔の感覚のまま、新卒の若者に「とりあえず」営業をさせていませんか?

ツールの進化や価値観の広がりにより、営業も、仕事の内容や従事者の特性などが変わってきています。方法やツールをアップデートして、営業で成果を上げられるビジネスパーソンになりたい。そんな組織をつくりたい。営業のアップデートに燃えるあなたのヒントになればと、拓殖大学の北中教授とCLF PARTNER代表の松下が「今の営業」を語ります。

北中英明

拓殖大学 商学部 教授

一橋大学商学部、J.L.Kellogg Graduate School of Management, Northwestern University(ノースウェスターン大学ケロッグ・ビジネス・スクール、MBA)卒。
サントリー株式会社を経て、ゼネラル・エレクトリック社(GE)の企画開発部長として、家電事業、照明事業、情報サービス事業等の日本における事業展開プロジェクトを管轄。
その後、ディジタルイクイップメント社(DEC)に移り、事業開発部長として戦略提携業務を担当する。
1997年より実業界から学界に転じ今日に至る。

毎日行う「営業」こそ、論理的に体系立てて、真剣に向き合うべき

松下和誉(以下、「松下」)

営業は、フレームワークはあるものの、体系化されてこなかった領域ですよね。北中先生が出された『はじめての営業学』(弘文堂)の体系から、私も多くを学びました。だから、体系的に学べれば日本の営業現場は変わると考えています。ご存じでない方のために、営業に対する北中先生の考えを改めて教えていただけますか。

北中英明(以下、「北中」)

人事・会計・マーケティングなどが経営学にはありますが、マーケティングにある「4P」の概念の内、営業は、プロモーションに含まれる「パーソナルセリング」という末端の小さな扱いしかされていません

しかし、企業で売上を立てるのは営業です。だから、もっと重要視されて大きく扱われるべきだと考えています。新卒の若手に「とりあえず営業をやらせろ」といった風潮が多くの企業でいまだに見られるかと思います。「とりあえず営業」のような扱いをされる背景には、仕事の価値や役割が社内外に伝わりきってこなかった面があるのではないでしょうか。営業は誇り高くて大事な仕事であると発信し、自覚を持つべきです。

松下

私が社会に出た2007年頃は、営業は花形でした。しかし今は、マーケティングのほうが主役になりつつあるように感じます。

北中

それは業種や企業によるかもしれません。国内の大企業では、依然として営業が強いところもあります。一方のアメリカでは、営業は高度な専門職として扱われています。大学で営業を専攻していなければ就けない場合もあるそうです。欧州でも同様の傾向があります。

海外では、営業研究専門の学会などもありますが、日本では、営業の学術的な研究はあまり盛んではありません。だからこそ、営業を体系化して伝えていきたいと考えています。世間では、経営戦略やマーケティングといった「かっこいい分野」が好まれますが、それらを考えるのは年に数回です。営業は、毎日の活動ですから、もっと真剣に向き合うべきなのです。既存のノウハウは「いかに顧客に気に入られるか」といった精神論やハックばかりですが、論理的に体系立てて学ぶべきだと私は思っています。

まずは、マネージャーやリーダーから。営業の知識を実践的・全体的に把握しよう

松下

営業は、経営そのものです。日本が起業家を排出していく上で、これほど重要な学問はありません。我々のような実務家はマーケティングや戦略的なフレームワークを営業に落とし込もうと試行錯誤しており、先生の体系化された知見は武器になると感じました。営業学の体系をビジネスパーソンが学びたいと思ったら、どのように習得していけばよいのでしょうか。

北中

現場の方に分厚いテキストを読ませても、「明日の受注につながらない」と敬遠されるでしょう。やる気のある優秀な方は平社員の時からでもいいのですが、組織を率いるマネージャーやリーダー層が、まずは知見を習得すべきでしょう。

営業に必要な知識は、MBAのコースで学ぶ内容とそれほど変わりません。経営戦略、マーケティング、人事・組織論、財務・会計の一部など主要な内容が含まれています。昔、学研の図鑑シリーズに「総合」という巻がありましたが、私が提唱する営業学も似たようなイメージです。個別の知識をバラバラに学ぶのではなく、実践的な知識としてパッケージ化しています。全体を把握することがまずは重要だと考えているからです。

ハイパフォーマーをどう扱うか。現場から外して、組織を育てたケースも

松下

プロセスの仕組み化において、当社でもAIを採り入れ始めています。当社では、ハイパフォーマーと、成果が出にくい中間層の方々の商談を録画し、AIを使って分析しています。型をつくり、音声解説付きのロールプレイングに落とし込み、手本を見せながら、ハイパフォーマーの動きを再現できるように3〜6ヶ月かけて伴走していく流れです。ただ、ハイパフォーマーに組織が依存している状況をどう変えていくかは常に悩ましいです。北中先生はどう思われますか?

北中

解決策の一つは、貴社の取り組みのとおり、型をつくることですかね。そしてもう一つ、ハイパフォーマーを外すことです。最近書籍で知った株式会社SHIFTの事例を紹介します。初期のトップセールスで、売上を4倍にした功労者がいたのですが、会社はそのハイパフォーマーを現場からあえて外しました。特定の人に組織がぶら下がるのを避けるためです。ハイパフォーマーを外すことで、次の人材が台頭する環境をつくったという思い切った事例だと言えます。外されたエースは、今も別の部署で活躍されているそうです。

松下

優秀なビジネスパーソンについて過去に調査した時、共通点を二つ見つけました。一つは、若い時に修羅場を経験していること。もう一つは、多くの部署を経験していることです。二つに当てはまる人が、ハイパフォーマーになっているとの結果が出ました。ですから、組織のデザインと、定期的な異動を考えておくのが重要だと感じました。もちろん、会社全体を俯瞰して考える必要があり、ハイパフォーマーが別の部署で腐っては元も子もありません。現場にはしんどい決断ですよね。

北中

ハイパフォーマーが抜ける不安は大きいでしょうね。5〜10年のスパンで見れば組織の活性化につながりますが、単年度で見れば確かにリスクです。だからこそ、経営者には余裕のある判断が求められます。

世の中が便利に・効率的になる中、若者は「成長」を求めている

北中

耐性のない人が営業に配属されて数ヶ月で辞めてしまうことはよくあります。最近の若者は特にその傾向が強く、時代に合わせて教育も変えていかなければなりません。

松下

私が営業で学んだのは、「理不尽さを受け入れ、問題をどう解決するか」でした。今日中に決めてこいと言われ、夜の8時に工場に飛び込んだこともあります。売れない中で、買ってもらえる方法を考え抜く。それが営業の醍醐味でした。分業化が進み、見込み客を与えられる効率的な環境も珍しくありません。分業化や効率化が進んだ今、本当の意味での「考える力」が若い人たちに付いているのか、不安になることもあります。

北中

私も学生時代に、飛び込み営業のアルバイトをしていたことがあります。学生向けの教材を売っていました。スマホも・リストもない時代に、手書きの住所録を頼りに一軒ずつの訪問営業です。夕方には暗くなるので、街灯で住所録を確認しながら回っていました。あの経験は今でも鮮明に覚えています。ノックするまでは怖くてドキドキしましたが、勇気を振り絞る経験が重要でした。鍛えられましたね。

現在は、AIなどの進化で最適解に結びつくスピードは速まったものの、粘り強さやメンタルの強さを鍛える機会が減っていると感じます。最近の若者は「成長できるか」を重視しますから、仕事や経験が成長につながる理由を、納得できるように説明する努力がマネージャーやリーダーに求められるでしょう。

「営業」のイメージを変える工夫が必要。女性が活躍する仕事に変化している面も

松下

実は、「営業」という言葉を使うのを止めようと当社内で議論をしています。好き嫌いがある言葉ですから、「セールスマーケティング」などと言ったほうが良いのかと。実際にやっていることはマーケティングに近い部分もありますから。

北中

原稿などを書く際、私も以前は「営業員」と言っていましたが、最近は「セールスパーソン」を使っています。ただ、セールスだけだと「押し売り」のイメージがつきまといますよね。本来の「営業」は、価値を提供する活動です。だから、言葉の工夫は必要かもしれません。

最近の話でいうと、女性の営業職が増えていますよね。男女雇用機会均等法や、就業環境の改善、子育て支援制度の整備などの影響が大きいでしょう。「外勤は男性、内勤は女性」という固定観念も昔の話で、今は女性の営業が高いパフォーマンスを発揮しているケースが多いです。

松下

ご指摘のとおりです。一方で男性の営業職は、人数こそ多いものの、思うようにパフォーマンスが上がらないケースも見受けられます。明確な理由は分かりませんが、実態として指摘されたような傾向はあります。

あと以前、同じ内容のメールを男性名の「たけし」と女性名の「ふうか」で送って返信率を調査したことがあります。結果は、「ふうか」のほうが圧倒的に返信率が高かったです。送り先の大半が管理職の男性で、女性名のほうが心理的なハードルが下がってメールを開きやすかった面があるのかもしれません。

北中

データを統計的に処理して、差に有意性が認められれば、立派な論文になるかも知れません。「ふうか理論」のような形で世に出せたら面白いですね。

営業も・購入もAIがする時代が来る!?人間に残された役割は?

松下

当社は、AIを使って営業を効率化できるシステムを組んでいます。AIの進化がこれだけ速いと、自分たちもアップデートしていかないと、追いついていけません。AIと営業は共存すると言われつつも、正直なところ、20年もすれば営業の仕事はなくなるのではないかという危機感を持っています。

北中

「マシンカスタマー(機械顧客)」の時代がこれからやってきます。顧客側もマシン……つまりアルゴリズムが購入の判断まで下すようになるのです。そうなると、DXに躍起になって自分たちの営業活動のあり方を変えようとしても、相手がマシンであれば、その取り組みは意味をなさなくなります。究極的には、マシン同士で取引が完結する世界も予想できるでしょう。

松下

実は今日も、似たような体験をしました。かかってきた電話に出てみると、人間の自然な言葉で説明とお礼を言われたのですが、AIだったのです。こちらから話しかけても反応がなかったのでAIだと気づきました。切る時の受話器の音まで再現されていました。AIによって仕事が簡略化され、これまで以上の量をこなせるようになっているのでしょうね。

北中

シンギュラリティ(技術的特異点)が訪れるまでは、指示出しやディレクションを行うのは依然として人間です。営業においても、どの業務をAIに任せ、どのタイミングでチェックするかといった設計力が求められます。アウトプットの最終確認も重要です。AIが作成したものが不自然でないかといった情緒的な部分は、サンプリング調査のような形で人間が担うことになります。「営業のプロセス設計」「アウトプットのチェック」は、人間に残される領域と言えそうです。

少し前に注目された、AIに「微表情」を学習させ、相手の本音を読み取る技術なども、今後の営業活動に影響を及ぼす可能性があります。微表情は隠せませんから、対人間であればAIに本音を読まれてしまうでしょう。そうなると、人間側もAIに本音を読み取られないよう、感情を表に出さない振る舞いをするようになるかもしれません。

松下

「いいですね」と相手が言っていても、実は響いていないといった本音を見抜けたら、商談では極めて強力な武器になりますね。

北中

営業がRolexの時計をつけていると66%の客はその人から買わなくなるといった興味深い論文があります。ブランド品を誇示すると、不当に儲けていると思われ、逆効果になるという理屈です。

それは海外の論文でした。著作権に配慮しながら、営業に参考になりそうな論文を、私なりの視点も加えながらWeb上で紹介しようと考えています。こうした研究や発信の下準備も、AIのおかげで楽しく・効率的に進められるようになりました。今後、営業領域のドメイン知識を蓄積して、積極的に発信していくつもりです。

体系的に学び、現場の変化を感じることで、営業をアップデート

経営学のあくまで一分野として、営業は軽視されてきた面があります。しかし営業は、毎日行われる活動であり、体系立てて学ぶべきものです。しかもまずは、マネージャーやリーダーが率先して知見を習得していくのがいいと北中先生はおっしゃいます。

今回は、アカデミックな知見をお持ちの北中先生に、実務側としてCLF PARTNERSの松下が現場のリアルを聞いていただく対談になりました。話に挙がった経験談やアイデアが、あなたの「営業」のアップデートにつながれば幸いです。

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