営業戦略の立て方|業種別の勝ち筋と見直しの手順まで解説

「期初に売上目標は降りてくるが、そこからどう戦略に落とせばいいのか分からない」
「戦略と戦術の違いが曖昧なまま、とりあえず訪問件数を増やす指示を出している」
「メンバーごとに提案の中身がばらばらで、勝ちパターンをチームに広げられない」

マネージャーやリーダーに就いて日が浅い方から、こうした声をよく聞きます。戦略が立てられないのは経験不足だからではなく、誰に・何を・どのように売るかを決めないまま、目標数字だけを行動量に置き換えているからです。

ただし本記事は「まず立派な戦略書をつくるべき」とは考えません。危ういのは戦略がないこと自体ではなく、成果が出ない原因が営業個人・営業組織・商品競争力のどこにあるかを切り分けないまま、戦略だけを作り直してしまう状態です。

本記事では、営業戦略の基本的な考え方から立て方の5ステップ、業種ごとに異なる勝ち筋、そして戦略が機能しなくなったときの見直し方までを解説します。

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この記事はこんな方におすすめです

  • マネージャー・リーダーに就任して間もなく、期初や四半期の戦略立案に迷っている
  • 売上目標は決まっているが、そこから先の打ち手をどう決めればいいか分からない
  • 【IT・SaaS】SIer・受託・SaaSで戦い方が違うのに、同じやり方で営業している
  • 【製造業】技術力には自信があるのに、見積の価格比較でしか評価されない
  • 一度立てた営業戦略が形だけになっており、立て直しの手順を知りたい 

営業戦略とは?意味・目的をわかりやすく解説

営業戦略とは、限られた営業資源を勝てる場所に集中させるための方針です。目的は、受注を個人の勘や経験に依存させず、組織として再現できる状態をつくることにあります。売上目標は期初に決まっても、達成までの道筋までは決まりません。

そのため、方針がないまま訪問件数だけを増やせば、勝率の低い商談に工数が流れ、行動量に対して受注が積み上がらない状態に陥ります。

また、判断基準が共有されていなければ、担当者ごとに狙う顧客も提案内容もばらつきます。つまり営業戦略とは、現場の行動量を受注へ変換し、成果を再現するための設計図です。 

営業戦略と営業戦術の違いとは?

営業戦略は「どこで戦うか」を決めるもので、営業戦術は「どう戦うか」を決めるものです。両者は上下関係にあり、戦略で選んだ戦場に対して、戦術という手段を割り当てます。それぞれが決める対象は、次のように分かれます。

営業戦略営業戦術
決めることどこで戦うかどう戦うか
対象ターゲット、提供価値、チャネルトークスクリプト、訪問頻度、提案資料、追客方法
見直す頻度期初・四半期週次・商談単位
責任者経営者、営業部長マネージャー、営業担当者

たとえば訪問件数を2倍に増やしても、自社の価値が刺さらない業界を回っている限り、受注数はほとんど変わりません。反対に戦う場所が合っていれば、同じトークスクリプトでも商談は前に進みます。

したがって、現場の動きが鈍いときほど、戦術ではなく戦略から見直すべきです。戦術を磨いても、戦う場所を間違えていれば成果は出ません。

営業戦略の立て方・考え方|成果が出る戦略に共通する3つの視点

成果が出る営業戦略に共通するのは、「誰に売るか」「何を売るか」「どう売るか」がこの順番で決まっていることです。

誰に売るかが定まって初めて提供価値を言語化でき、提供価値が定まって初めてチャネルを選べます。順番が逆になると、獲得するリードの質がばらつくか、誰にも刺さらない訴求になります。ここからは、3つの視点をどう決めるかを順に解説します。 

「誰に売るか」を決める|市場・セグメントの選定

「誰に売るか」を決めるとは、売らない相手を決めることです。営業資源には上限があるため、全方位に営業すれば人員も時間も分散し、勝率の低い商談に工数が流れます。

とはいえ、絞ることを機会損失と捉える方は少なくありません。しかし中小企業白書では、競合が少ない市場を選んだ企業のほうが、競合が多い市場を選んだ企業より売上高増加率・付加価値額増加率のいずれも高いと示されています。

つまり競合の少ない領域を選ぶこと自体が、成長要因として機能します。市場規模の大きさではなく、自社が勝てる可能性の高いセグメントはどこかという基準で選定してください。
参考:中小企業庁「2023年版中小企業白書」第2-1-10図

「何を売るか」を決める|注力商材と提供価値の言語化

「何を売るか」は、商材名ではなく顧客が得る価値で定義します。顧客が対価を払う対象はスペックそのものではなく、それによって業務や数字がどう変わるかだからです。たとえば製造業なら、設備の性能ではなく次の変化に翻訳します。

  • 不良率
  • 納期
  • 工程数
  • 調達リスク
  • 開発期間

ここで前段のターゲット選定が効いてきます。同じ商材でも顧客の課題によって提供価値は変わるため、狙う相手が決まっていなければ翻訳先も定まりません。

また、自社の強みが社内で言語化されていなければ、担当者ごとに提案がばらつき、勝ちパターンをチームへ展開できません。技術やスペックを「顧客が買う理由」へ変換してください。

「どう売るか」を決める|戦術・チャネルのプランニング

「どう売るか」は、ターゲットが情報を集める場所から逆算して決めます。自社が使い慣れた手段を基準に選ぶと、顧客の検討プロセスと接点がずれるためです。選択肢には次のチャネルがあります。

  • 訪問
  • インサイドセールス
  • Web
  • 紹介

たとえば決裁者が展示会や紹介経由で情報を集める業界では、Web広告を増やしても商談化にはつながりません。そしてこの順番で決めた3点は、成果と直結します。

中小企業白書でも、顧客・提供価値・価値提供方法の3点を明確にした企業が最も売上高増加率が高いと示されています。したがって、施策を増やす前に3点が揃っているかを点検してください。
参考:中小企業庁「2023年版中小企業白書」第2-1-17図

営業戦略の立て方5ステップ

営業戦略は、目標設定から始まり、分析・ターゲット設定・顧客理解を経て、実行可能なアクションプランに落とし込むまでの5ステップで立てます。順番に意味があり、前のステップの精度が次のステップの精度を決めます。

市場分析を飛ばしてターゲットを決めれば、根拠のない絞り込みになります。したがって、自社がどのステップから曖昧なのかを確認しながら読み進めてください。 

ステップ1:短期・中長期の目標を設定する

営業目標は、売上金額だけでなく達成までの道筋がわかる形で設定します。金額だけを掲げても、現場は何をどれだけ増やせばよいか判断できないためです。まず売上を次の3要素に分解してください。

  • 商談数
  • 受注率
  • 平均単価

たとえば売上を1.5倍にする場合、商談数を1.5倍にするのか、受注率を改善するのかで打ち手はまったく変わります。商談数が不足しているならリード獲得やインサイドセールスの強化が必要ですが、受注率が低いなら提案力や商談プロセスの見直しが優先されます。

あわせて、3年後の到達点から逆算して今期の目標を置いてください。中長期の到達点がなければ、毎期の目標が前年比の積み上げになり、戦略ではなく数字合わせになります

ステップ2:市場・自社・商材の理解を深める

市場と自社は、どちらか一方ではなく両方を分析します。中小企業白書によれば、経営戦略の策定起点は「自社の経営資源の分析」が58.1%、「ターゲット市場の分析」が36.0%と分かれています。しかし、どちらを起点にした企業でも8〜9割がもう一方の分析も実施しています。

つまり起点の違いは順番の問題であり、両方を分析すること自体は必須だといえます。「何から手をつければいいか分からない」と迷う場合は、着手しやすいほうから始めて構いません。自社の強みが見えている企業は経営資源から、顧客の変化を掴んでいる企業は市場から入ってください。

分析の枠組みとしては3CやSWOTが有効ですが、具体的な使い方は次章で解説します。
参考:中小企業庁「2023年版中小企業白書」第2-1-2図・第2-1-3図・第2-1-4図

ステップ3:ターゲットを定める

ターゲットは、業種・規模だけでなく決裁構造と課題まで揃えて定義します。業種と規模だけでは、同じ条件の企業でも導入に至る企業と至らない企業の差を説明できないためです。具体化すべき項目は次の6つです。

  • 現在どのような業務をしているか
  • どの程度の課題が発生しているか
  • 解決の緊急度は高いか
  • 誰が導入を決めるか
  • 導入後に利用を定着させられるか
  • 継続利用で成果が積み上がるか

この6項目は、机上の議論ではなく既存顧客から逆算すると精度が上がります。すでに受注した顧客に「なぜ最初に相談したのか」「他社ではなく自社を選んだ理由は何か」「導入前にどのような問題が起きていたか」「自社によって業務や数字がどう変わったか」「どの業界・製品・工程で同じ価値を再現できるか」を確認してください。

勝てた理由が言語化できれば、同じ条件を持つ企業が次に狙うべきターゲットになります
参考:いち産業振興機構「中小企業のための営業支援マニュアル|ターゲット選定」

ステップ4:顧客理解を深める(ペルソナ・カスタマージャーニー)

顧客理解とは、購買に至るまでの検討プロセスを把握することです。BtoBでは複数人が意思決定に関わり、立場によって見る指標が異なるためです。整理すべきは、誰がどの段階で何を判断するかという構造になります。

立場主に見る観点
担当者現場の業務がどう変わるか
部門長部門の指標がどう改善するか
決裁者投資対効果と社内の優先順位

また、商談で聞いた要望をそのまま持ち帰っても顧客理解は深まりません。その要望が出てきた背景、放置した場合の影響、社内の優先順位、意思決定条件まで確認してください。この4点を押さえることが、成果を出す営業に共通する行動です。

これまで約935人の営業を見てきましたが、受注できない営業ほど「機能の説明が足りなかった」と振り返ります。しかし商談を確認すると、要望を聞いた直後に機能説明へ移っているんですよね。成果を出す営業は「それはいつから困っていますか」「今期の優先順位は何番目ですか」と、要望が生まれた背景まで必ず確認します顧客理解の差は、聞く量ではなく聞く深さに出ます。

ステップ5:施策とKPIをアクションプランに落とし込む

戦略は、担当者が今週動ける粒度まで分解して初めて実行されます。方針のままでは、何をどれだけやれば達成なのかを現場が判断できないためです。KPIは、次の2種類を両方置いてください。

  • 結果指標:受注数、受注金額
  • 行動指標:商談数、提案数、初回接点数

結果指標だけでは、未達が判明した時点で打ち手が間に合いません。反対に行動指標だけでは、活動量は増えても受注につながらない状態を見逃します。

そのうえで、誰が・いつまでに・何をやるかを明記してくださいたとえば「提案数を増やす」ではなく「担当者Aが今四半期中に既存顧客10社へアップセル提案を実施する」と書けば、進捗を週次で確認できます。実行されない戦略の多くは、この分解が足りていません。

営業戦略の立案に使えるフレームワークとテンプレート

営業戦略の立案では、フレームワークとテンプレートを使い分けます。フレームワークは分析の抜け漏れを防ぐ思考の枠組みであり、テンプレートは分析結果を実行可能な計画へ落とし込む書式だからです。

分析を丁寧に行っても書式に落ちていなければ現場へ共有されず、書式だけを埋めても中身は前年の焼き直しになります。両方を揃えて初めて、戦略が実行される状態になります。

営業戦略に使える主要フレームワーク一覧(3C・SWOT・STP・4P)

営業戦略の立案で使う主要フレームワークは、3C・SWOT・STP・4Pの4つです。前章の5ステップに対応しており、どの工程で使うかが決まっています。

フレームワーク分析対象対応するステップ
3C市場・競合・自社ステップ2:市場と自社の理解
SWOT強み・弱み・機会・脅威ステップ2:市場と自社の理解
STP市場の細分化と立ち位置の決定ステップ3:ターゲットを定める
4P商品・価格・流通・販促ステップ5:施策への落とし込み

重要なのは、すべてを埋めることではありません。3CとSWOTで自社が勝てる領域を把握し、STPで狙う相手を決め、4Pで打ち手に変換するという流れを通すことです。

フレームワークを分析のための分析で終わらせると、資料は完成しても現場の行動は変わりません。各フレームワークの具体的な使い方は、以下の記事で解説しています。

営業戦略テンプレート一覧

営業戦略のテンプレートは、目的別に使い分けます。戦略全体を整理する書式と、現場の行動へ落とし込む書式では、記載すべき項目が異なるためです。実務で使われる主なテンプレートは次のとおりです。

テンプレート記載する内容
営業戦略シートターゲット、提供価値、チャネル、目標数値
ターゲット定義シート業種・規模、課題、決裁者、導入の緊急度
KPIツリー売上を商談数・受注率・単価へ分解した指標
アクションプラン担当者、期限、実施内容、進捗確認の頻度

いずれの書式でも、埋めることが目的になれば形骸化します。運用のポイントは、期初に作成して終わりにせず、四半期ごとに実績と照らして更新することです。

とくにターゲット定義シートは、受注・失注の結果が蓄積されるほど精度が上がります。自社の営業会議で使っている資料をそのまま流用しても構いません。

【業種別】営業戦略の勝ち筋は業種によって異なる

営業戦略の勝ち筋は、業種によって異なります。顧客が買うもの、商談が始まるタイミング、意思決定に関わる部門が業種ごとに違うためです。同じ「新規開拓を強化する」という方針でも、接点を持つべき相手も時期も変わります。

ここからは、IT・SaaS・製造業・新規事業の4類型について、つまずきやすい点と勝ち筋を解説します。

IT企業の営業戦略|SIer・受託・SESで勝ち筋は異なる

IT企業の営業戦略は、事業形態ごとに分けて立てます。IT企業を一括りにすること自体が、最初のつまずきです。SIer・受託開発・SES・SaaSでは、顧客が買うものも商談が始まるタイミングも異なります。

SIerの場合、RFPが出てから動くと機能・実績・価格の比較になります。顧客側ですでに要件と評価基準が決まっているためです。勝ち筋は、RFPが作られる前に接点を持つことにあります。きっかけとなる変化は次のとおりです。

  • 基幹システムの老朽化
  • 保守期限の到来
  • 法改正への対応
  • 事業拡大
  • M&A後のシステム統合

あわせて、情報システム部だけでなく利用部門・経営層・購買部門を整理し、それぞれの判断材料を用意してください。一方で受託開発・SESは、対応できる言語・在籍エンジニア数・人月単価だけを伝えると価格比較に陥ります。

過去にどのような課題を解決したか、曖昧な要件をどう整理したか、納期や品質をどう担保したかを見える化してください。

IT企業の支援で必ず聞くのが「RFPをもらってから提案しています」という言葉です。ただ、RFPが出た時点で要件も評価基準も決まっているので、そこから逆転するのは相当難しい。ある支援先では、保守期限が近い顧客をリストアップして半年前から接点を持つよう変えただけで、比較検討に入る前に相談が来るようになりました。技術力を説明するのではなく、「任せるとプロジェクトがどう成功しやすくなるか」まで伝えられるかが分かれ目です。

SaaS企業の営業戦略|部門ごとの数字ではなく受注すべき顧客を揃える

SaaS企業の営業戦略では、部門をまたいで「どの顧客を受注すべきか」を揃えます。SaaSで多いのは、各部門が自部門の数字だけを追う状態です。

部門追っている数字
マーケティングリード数
インサイドセールスアポイント数
フィールドセールス受注数
カスタマーサクセス解約率

受注すべき顧客像が共有されていなければ、リードとアポイントが増えても受注や継続にはつながりません。勝ち筋は、ICPを業種・企業規模だけでなく、業務内容・課題の程度・解決の緊急度・決裁者・定着可否・継続で成果が積み上がるかまで具体化することです。

商談では機能説明ではなく「どの業務がどの程度変わるか」を合意してください。トライアルも、開始前に成功条件と判断日を決めなければ無料利用だけで終わります。SaaSは受注がゴールではなく、初期設定完了率・利用定着率・継続率・アップセルまでを一つの営業戦略として設計する必要があります。

製造業の営業戦略|課題が形成される段階に接点を持てるかで決まる

製造業の営業戦略は、課題が形成される段階に接点を持てるかで決まります。仕様と見積条件が決まった後に購買部門から声がかかる状態では、ほぼ価格でしか比較されないためです。初回商談が会社紹介・工場紹介・設備一覧・加工精度の説明で終わるケースは少なくありません。

しかし顧客が知りたいのは設備の性能そのものではなく、その技術によって次の項目がどう変わるかです。

  • 不良率
  • 納期
  • 工程数
  • 調達リスク
  • 開発期間

したがって、購買部門だけでなく、課題が形成される段階にいる次の部門と接点を持ちます。

  • 開発
  • 設計
  • 生産技術
  • 品質保証

狙う業界・用途・企業を決める際は、既存顧客に「なぜ最初に相談したのか」「他社ではなく自社を選んだ理由は何か」を確認し、技術を顧客が買う理由へ翻訳します。また製造業は設備稼働率に上限があるため、粗利・設備負荷・継続性・将来性を踏まえ、受注しない案件を決めることも営業戦略です。

製造業の会社で「うちは技術力が強みです」と伺い、実際に初回商談へ同席すると、設備一覧と加工精度の説明で40分が過ぎていました。お客様が知りたいのは、その技術で自社の不良率や納期がどう変わるかなんですよね。既存のお取引先に「なぜ最初にうちへ相談したのか」を聞き直すと、選ばれた理由はたいてい設備そのものではありません。技術は、顧客が買う理由に翻訳して初めて営業の武器になります。

新規事業の営業戦略|型化を急ぐと「売れない型」が組織に広がる

新規事業の営業戦略では、型化を急がないことが重要です。売れた経験がほとんどない段階で営業資料・トークスクリプト・KPI・営業プロセスを完成させると、「売れない型」を組織に広げることになります。初期段階の営業は、売上を最大化する活動であると同時に事業仮説を検証する活動です。

したがって、アポイント数だけでなく次の情報を蓄積してください。

  • 顧客が強く反応した課題
  • 反応しなかった訴求
  • 二回目の商談に進んだ理由
  • 有料でも導入したいと言われた機能
  • 導入を見送った本当の理由
  • 決裁者が価値を感じたポイント

売れない理由をすべて営業力不足にすれば商品が改善されず、すべて商品や市場のせいにすれば営業の実行力が育ちません。ターゲット・課題・提供価値・価格・提供方法を一つずつ検証し、小さくても受注できる条件が見えてから型化してください。

営業戦略の具体例|CLF PARTNERSの支援事例

ここからは、CLF PARTNERSが実際に支援した2社の事例を紹介します。いずれも成果が出なかった原因が、当初想定されていた場所とは別にあったケースです。1社目は営業担当者の活動量ではなく組織構造に、2社目は商品の差別化ではなく営業の実行内容に原因がありました。

自社の状況と近い事例があれば、原因の切り分けの参考になるはずです。

具体例1:新規受注0円から年間2,200万円を創出したIT・セキュリティ企業

新規受注0円からの脱却は、営業担当者の増員ではなく組織の再設計によって実現しました。少人数で立ち上げた新規事業部門であり、原因は活動量だけではなかったためです。

少人数で事業を立ち上げてきた結果、マーケティング・営業・採用・教育・リーダーシップ・組織運営が特定の人に依存し、それぞれが分断されていました。そこで営業トークの修正ではなく、次の6点を一体で見直しています。

  • 事業と組織の強み・弱みの可視化
  • ターゲットと提供価値の再整理
  • マーケティングから受注までの営業プロセス設計
  • 営業メンバーの採用と教育
  • リーダーの役割と組織体制の再構築
  • 営業会議とコミュニケーション方法の改善

結果として、年間2,200万円の新規受注を創出しました。サブスクリプション型の契約であるため、翌年以降の継続収益にもつながっています。この事例が示すのは、誰に・どの価値を・どのプロセスで届けるかを決め、それを実行できる組織へ変えた点です。

具体例2:商談成約率35%向上・平均単価20%増を実現したBtoB SaaS企業

成約率の差を生んでいたのは、商品の差別化ではなく営業の実行内容でした。従業員約400名のBtoB SaaS企業で、同じ商材・同じターゲットに営業しているにもかかわらず、担当者によって成約率に大きな差がありました。

当初は「競合との差別化ができない」ことが課題として挙がっていましたが、実際の商談を確認すると原因は別にあります。受注できない営業は要望を聞いた後すぐ機能説明へ移り、成果を出す営業は要望が生まれた背景・現場への影響・社内の優先順位・意思決定者の判断基準まで確認していました。

そこで戦略やターゲットを作り直すのではなく、競合との違いを顧客価値で整理し、ヒアリング項目の設計、プレゼンテーション研修、独自ケーススタディ、受注できる営業の思考と行動の標準化に取り組んでいます。その結果が次の成果です。

指標変化
商談成約率35%向上
平均契約単価20%増加
新人営業の立ち上がり期間2カ月短縮

変えたのは戦略ではなく、営業の実行内容だけです。実行のばらつきを戦略の問題と捉えると、手を入れる必要のない戦略を作り直すことになります。 

営業戦略が機能しないときの見直し方

営業戦略が機能しないときは、戦略を作り直す前に原因の切り分けから始めます。成果が出ない原因は営業個人・営業組織・プロダクト競争力の3つに分かれ、どこで止まっているかによって打つべき手がまったく違うためです。

ここからは3つの原因の見分け方と、特定後の改善の進め方を解説します。

まず「どこで止まっているか」を特定する

営業戦略の見直しは、どこで止まっているかの特定から始めます。原因を切り分けないまま戦略を作り直しても、本当の原因が残ったままになるためです。整理すべき原因は次の3つです。

  • 営業個人の問題
  • 営業組織の問題
  • プロダクト・サービス競争力の問題

多くの企業では、この3つを切り分けないまま「営業戦略が悪い」「営業担当者の能力が低い」「商品が弱い」と議論が進みます。しかし営業担当者の能力が原因であれば戦略書を作り直しても変わらず、商品競争力が原因であれば研修を重ねても成果は出ません。つまり見直しとは、新しい施策を考えることではなく、止まっている箇所を正しく特定する作業です。

売上が落ちると、多くの会社が営業戦略を作り直そうとします。しかし、戦略、営業個人、営業組織、商品競争力を切り分けないまま作り直しても、原因が残るためまた失敗します。営業戦略の見直しとは、新しい施策を考えることではありません。まず、どこで止まっているのかを正しく特定することです。

 営業個人に原因があるケース|QDRで実行力を分解する

営業個人に原因がある場合は、実行力を「QDR」の3要素に分解します。QDRとは、CLF PARTNERSが独自に提唱する、営業個人の実行力を測るフレームワークです。

QDRは机上の理論ではなく、現場の観察から導き出しています。CLF PARTNERSでは2021年から2026年にかけて約35社・約935人の営業活動を観察し、上位5%かつ目標を達成している営業約30人と、一般・若手営業約500人を比較しました。

その結果、両者の違いは話術や人柄ではなく、次の3点に表れていました。 

一般営業トップセールス
要望の扱いそのまま持ち帰る背景・放置した場合の影響・社内の優先順位・意思決定条件まで確認する
進捗の把握「提案済み、検討中」と報告する誰が何を基準にいつ判断するかまで把握している
反応への対応次回の商談まで動きが変わらない次の質問・資料・提案・追客を変えるスピードが速い

この差をCLF PARTNERSが整理したものが、次の3要素です。

  • Quantity:成果につながる有効行動量
  • Depth:顧客の本質的な課題を探索する深さ
  • Response:顧客の反応を受け、次の行動に反映する応答実行力

3つは足し算ではなく掛け算で効きます。したがって、架電数を増やすだけ、ヒアリング研修をするだけでは成果が続きません。営業戦闘力診断では、準備・接触・提案・締結・フォローの5フェーズを各10問・計50問で診断し、どのフェーズで止まっているかを切り分けます。

営業組織に原因があるケース|経営層と現場の認識差を可視化する

営業組織に原因がある場合は、経営層と現場の認識差を可視化します。組織の課題は自己申告のサーベイだけでは表面化しないためです。営業組織力診断では、72設問のサーベイに加えて次の情報を突き合わせます。

  • 25項目の客観データ
  • 経営層・管理職・現場への階層別インタビュー
  • 営業会議、案件レビューの観察
  • 商談記録の確認
  • CRM・SFAデータとの突合

そのうえで、営業戦略・ターゲティング/需要創出・パイプライン/営業プロセス・実行/営業マネジメント/人・組織・育成/データ・仕組み・部門連携の6領域18項目を、Lv1の属人的な状態からLv5の自律的に改善し続ける状態まで評価します。

ここで見えるのが「できているつもり」です。経営層は「ターゲットを明確に伝えている」と回答しても現場は説明できない、マネージャーは案件レビューをしているつもりでも実際は進捗確認だけで失注回避の意思決定になっていない、といったずれが可視化されます。

プロダクト競争力に原因があるケース|競合の営業体験まで比較する

プロダクト競争力は、競合の営業体験まで比較して判断します。自社へのヒアリングだけでは、商品が選ばれない理由を正しく特定できないためです。そのため競合の公開情報だけでなく、問い合わせから提案・見積もり・フォローまでを実際に体験し、次の項目を比較します。

  • 問い合わせへの返信速度
  • 最初にどのような質問をされるか
  • 顧客課題をどこまで理解しているか
  • 機能ではなく価値を伝えられているか
  • 価格と提供内容の関係が分かりやすいか
  • 顧客の意思決定を支援できているか
  • 提案後にどのようなフォローがあるか

これにより、商品に強みはあるが営業が伝えられていないのか、営業は適切に提案しているが商品や価格が競合より弱いのかを切り分けられます。自社が強みだと考えている点を顧客は価値と感じていない場合や、価格競争の原因が価格設定ではなく価値訴求の弱さにある場合も少なくありません。

特定した原因から90日単位で改善する

原因を特定したら、影響の大きいボトルネックから90日単位で改善します。3つの診断結果の組み合わせによって、打つべき手が変わるためです。

診断結果優先すべき打ち手
個人が低く、組織と商品に問題がない研修・ロールプレイ・1on1・商談同席で個人の改善を優先する
一部のトップ営業だけが高く、組織診断が低い勝ち筋の言語化、営業プロセス、マネジメント、育成の仕組みを改善する
個人と組織は高いが、商品診断が低い提供価値、商品設計、価格、訴求を見直す
個人・組織・商品のすべてに課題がある一度にすべて変えず、影響が最大のボトルネックから90日単位で改善する

営業担当者にさらに努力を求めるべき局面と、商品や仕組みを変えるべき局面は異なります。したがって営業戦略の見直しとは、新しい施策を考えることではなく、どこで止まっているかを特定して優先順位をつけることだといえます。

成果が出ない原因は、営業個人、営業組織、商品競争力のどこにあるでしょうか。原因によって、次に取るべき一手は変わります。

営業戦略に関するよくある質問

営業戦略について、現場で質問の多い5つの項目に回答します。

営業の5原則とは?

営業の5原則とは、成果を出す営業に共通する5つの基本行動です。

一般的には次の5つを指します。

  • 事前準備:顧客・市場・競合を調べ、仮説を立てて商談に臨む
  • 傾聴:要望だけでなく、その背景まで確認する
  • 提案:顧客の課題を解決する形で価値を伝える
  • クロージング:意思決定の条件とタイミングを押さえる
  • フォロー:受注後の関係構築と次の商談につなげる

ただし定義は企業や論者によって異なります。したがって、自社では何を原則とするかを言語化し、評価や育成の基準として共有することが重要です。

営業戦略の言い換え表現は?

営業戦略の言い換え表現は、「セールス戦略」「販売戦略」「営業方針」「営業計画」などです。

ただし、それぞれ指す範囲が異なります。

表現主な意味合い
セールス戦略営業戦略とほぼ同義。外資系企業などで使用
販売戦略価格や流通など、売る仕組み全体を含む
営業方針戦略より抽象度が高く、組織の方向性を示す
営業計画戦略を数値と期限に落とし込んだもの

社内で用語の意味がずれていると、議論が噛み合いません。そのため、使う言葉の定義を最初に揃えておく必要があります。

営業戦略を学べるおすすめの本は?

営業戦略の書籍は、学びたい階層に合わせて選びます。

戦略の考え方を身につけたい場合は経営戦略やマーケティングの古典、現場の手法を学びたい場合は営業スキルの実務書、組織を動かす立場であれば営業マネジメントや営業プロセス設計を扱った書籍が適しています。

ただし、書籍の内容は一般論です。そのまま適用するのではなく、自社の商材や顧客構造に合わせて翻訳し、自社の勝ちパターンと照らして取捨選択する姿勢が欠かせません。

営業戦略はどのくらいの期間で立てるべきですか?

営業戦略は、中長期(3年程度)と単年度の2階層で立てます。

3年後の到達点がなければ毎期の目標が前年比の積み上げになり、単年度の計画がなければ現場の行動に落ちないためです。見直しの頻度は、四半期ごとが目安になります。市場環境や競合の動きは1年のうちに変わるため、期初に立てた前提が途中で崩れることは珍しくありません。四半期ごとに実績と前提を照らし、ずれていれば修正します。

営業戦略はどこまで細かく決めるべきですか?

営業戦略は、担当者が今週の行動を判断できる粒度まで決めます。

「新規開拓を強化する」だけでは、誰に何件アプローチすべきかを現場が判断できないためです。

一方で、すべてを細かく決める必要はありません。ターゲット・提供価値・KPI・担当と期限は明確にし、商談の進め方やトークの中身は現場の裁量に残します。決めすぎれば環境変化への対応が遅れ、決めなさすぎれば実行がばらつきます。

まとめ|営業戦略は「立てて終わり」ではなく回し続けるもの

営業戦略は、期初に立てて終わりではなく、実行と見直しを回し続けて初めて成果につながります。市場も競合も顧客の検討プロセスも変わるため、立てた時点の前提はいずれ崩れるからです。

本記事では、営業戦略の考え方から立て方の5ステップ、業種別の勝ち筋までを解説しました。なかでも重要なのは、成果が出ないときに戦略だけを作り直さないことです。原因は営業個人・営業組織・商品競争力のいずれかにあり、切り分けずに手を打てば同じ失敗を繰り返します。

まずはどこで止まっているかを特定し、影響の大きいボトルネックから90日単位で改善する。この順番が、戦略を機能させる最短の道筋です。

CLF PARTNERSは、累計400社以上・3,000人以上の支援実績と6カ月以内の成果コミットで、営業を「個人の勘と経験」から「組織で再現できる仕組み」へ変える支援を行っています。まずは自社の営業力の現在地を確かめるところから始めてみてください。
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この記事の監修者

CLF PARTNERS株式会社
代表取締役社長 松下 和誉

大学卒業後、大手総合系コンサルティングファームに入社。最年少で営業マネジャーに就任。中小企業から大手企業まで幅広くコンサルティング業務を実施。また、文部科学省からの依頼を受け、再生機構と共に地方の学校再生業務にも従事。 その後、米Digital Equipment Corporation(現ヒューレットパッカード)の教育部門がスピンアウトした世界9ヵ国展開企業のJAPAN営業部長代行として国内の最高売上に貢献。 現在は関連会社12社の経営参画と支援を中心に、グループの軸となるCLF PARTNERS㈱ではVC出資ベンチャー企業、大企業の新規事業の支援に従事
公式Xアカウント:https://x.com/clf_km


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